避難所でも安心して眠れます――。

台風や豪雨など自然災害が各地で頻発する中、体育館や公民館で避難生活を送る被災者が少しでも快適に過ごせるように、主婦の中尾さとみさん(55)=神奈川県茅ケ崎市=が「災害用簡易安眠ハウス」を開発。7月に商品化が決まり、特許も出願中。

約20年前に思いついたアイデアが形となり「体育館のような所で雑魚寝するのは体への負担が大き過ぎる。大変な時だからこそ安心して眠ってもらいたい」と強調する。

簡易安眠ハウスは段ボール製で、重量は約2キロ。子どもやお年寄りでも簡単に組み立てられる設計にこだわった。三つに折り畳まれた段ボール製の就寝シート(長さ約1.8メートル)を広げ、片側に、組み立てたボックスをセットすれば完成だ。

ボックス部分に頭を入れて寝転がると、顔を見られずに済むのでプライバシーを確保できる。遮光や防音効果があるため、照明がまぶしかったり、雑音がうるさかったりして眠れない人でも安心して眠れ、ボックス内に貴重品をしまえるため防犯対策にもなる。「長時間避難することを考えると安眠が健康維持に欠かせない。誰もが安眠できるようあらゆることを考慮しました」と自信を見せる。

着想を得たのは約20年前。宿泊先のホテルの部屋を暗くして、幼い娘を寝かしつけようとした時に「暗い部屋の中だと身動きが取りづらい。眠ろうとする子どもだけを囲って暗くできれば便利なのに」とのアイデアが浮かんだ。普通にありそうなものなのに、誰も作っていないことが不思議でたまらず「自ら作ろう」と決意した。

2018年に発明学会に入会。19年3月にあった勉強会で安眠ハウスを発表したところ、「災害に特化したものがいい」とのアドバイスを受け、素材を改良するなど試作を重ねた。同7月の発明学会主催のコンクールで奨励賞を獲得し、商品化に向け前進。段ボール製防災用品の企画・製造を手掛ける「タカオカ」(奈良県五條市)に自ら売り込み、商品化につなげた。

タカオカの笠井文広常務は「被災者、ボランティア、自衛隊の声を聞いて商品開発をしている。営利目的ではない中尾さんの商品にかける思いに共感して、商品化のお手伝いをした」と説明する。

中尾さんは義理の母が長野県出身。昨年の台風19号で被災を免れたが、なじみ深い長野に甚大な被害が出たことに心を痛めてきた。災害への備えを強化する長野などの自治体で安眠ハウスが普及することを願っている。

「今まで子育てやらで気がついたら人生を折り返していたが、夢に向かう人生は始まったばかりです。発明には定年がない。困っている人のため、世の中のために頑張りたい」と意気込んでいる。

安眠ハウスは1個2200円(送料別)。詳細はサイト(https://takaoka-bosai.com/)。問い合わせはタカオカ(0747・26・3100)。

◇頭すっぽり、心地よく 記者も試してみた

2019年10月の台風19号で、長野県内は甚大な被害を受けた。記者が住んでいる佐久穂町も停電し、多くの人が避難所に身を寄せた。緊張した面持ちで雑魚寝しているお年寄りや子どもたちの姿を見て心が痛んだ経験から、同僚と「雑魚寝でいいのか?」をテーマに記事にしたところ、大きな反響があった。そのうちの一人が、安眠ハウスを開発中の中尾さとみさんだった。

誰もが被災者になりうる「災害大国」に住んでいるからこそ、避難所の環境を快適にすることは健康維持のためにも「絶対に欠かせないことなんだ」という強い思いが、中尾さんの言葉の端々にみなぎっており、その勢いに圧倒されたことを今でも覚えている。

安眠ハウスは本当に安眠できるのだろうか。寝転がってみた。ボックスが頭を囲ってくれているという安心感に包まれるせいか、妙に心地よい。換気窓もついているので息苦しさも感じない。誰からの視線も気にならないので、安心して眠ることができそうだ。段ボールから伝わるぬくもりの中には、中尾さんの情熱も混ぜ込んであるような気がした。(2020.7.22(水) 8:20配信 毎日新聞)

女性目線の防災対策がとても重要で役に立つという事例だと思います。この型が素晴らしいのはアイデアを形にしたことです。そのための行動力は頭の下がる思いです。