筆者は分譲マンションに住んでいる。そして、今、管理組合の役員をしている。外出自粛、3密回避のなかで新型コロナウイルスの感染対策はどうしたらよいのか、例年5月に開催される管理組合の総会をどうするか、いろいろ気になることばかりだ。ほかのマンションはどうしているのだろう?
■頼りにしたい管理会社はどこまでしてくれる?
新型コロナウイルスに関して、管理会社はどう対応するのだろうか?マンションの管理会社の業界団体である「一般社団法人マンション管理業協会」に聞いた。
マンション管理業協会では「マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン」を出している。それによると、管理会社は業務をするうえで法令順守が求められるが、「マンション居住者の安全を確保することを最優先として業務を行う」ことが望まれる、としている。管理組合に対する業務については、緊急時には定められた業務を行えない場合もあること、管理員の安全を確保する必要もあるので、マンションのライフラインを維持するための必要最小限の業務に絞る(勤務時間を短縮する)場合もあることなども、管理組合に対して事前に協議しておくようにといった方針を打ち出している。
また、政府の「緊急事態宣言」により交通の遮断が発令された場合は、管理会社の社員なども動けなくなるので、マンションのライフライン維持の対応について事前に管理組合と協議しておくように促している。
たしかにうちのマンションでも、緊急事態宣言で交通が遮断されたら、誰もマンションまで来られないので、各戸でゴミ出しをするようにといった書面が管理会社から来ていた。
■新型コロナウイルスの感染予防策は?
次に、感染予防策について考えてみよう。感染予防対策の原則は、各家庭において手洗いなどの予防対策をしっかり行ってもらうことだ。そのうえで、密閉空間の換気の問題や共用で使用する部分の消毒などの対策が考えられる。
うちのマンションは小規模なので、理事会から管理会社に、エレベーターの換気扇を稼働させること、エントランス扉の取っ手やエレベーターの操作盤を乾拭きではなく消毒液(消毒液は備蓄していないので次亜塩素酸水)で拭くことを依頼した。
ほかのマンションはどうしているのだろう?マンション管理組合の理事長や防災委員などの経験者でつくる情報交換を目的としたネットワークに話を聞いた。規模が大きいマンションでは、集会室などの共用施設もあるので、そうした施設の閉鎖なども行っていた。
また、いくつかのマンションでは、エントランスなどに消毒液を用意したり、感染予防に関する情報を掲示版などに掲示したりしていた。掲示する情報は、日々状況が変わるので頻繁にアップデートしたり、「新型コロナウイルス詐欺への注意喚起」「テイクアウトをしているご近所のショップ」などの情報まで提供しているマンションもあった。
このようにスピーディに予防対策に動けているマンションは、平時から防災委員会などが活発に稼働している傾向があるように感じた。なかには、大型台風で被災した経験から、備蓄した消毒液が今回活用できたという事例もあった。日ごろから緊急時の体制が整っているかどうかが、大きなカギになるのだろう。
■マンション内で新型コロナウイルスの感染者が発生したときどうする?
うちのマンションでは、実は「感染者が発生したとき」の対応策については、まったく考えていなかった。そうしたときに頼りにする管理会社は、どんな対応をしてくれるのだろう?マンション管理業協会に聞いた。
まず、感染が判明した段階で当人は病院に入院したり宿泊療養施設に移ったりしてマンションにはいないことや、管理組合や管理会社への報告義務もないので、状況を把握することは難しい。その後の保健所からの指導に従うことになるという。消毒を指示されたら、保健所の助言を得て消毒事業者を手配するといったことが考えられる。
この際に最も注意したいのは、プライバシーの保護だという。マンション内で感染者探しが始まったり、バッシングが起きたりといったことにならないように、個人情報を保護することが大切。理事がうっかり部屋番号を言ってしまう、ということはあってはならない。うちのマンションも、理事会で心構えだけでもしておきたいものだ。
さて、ネットワークで話を聞いたなかに、かなり先進的に事前準備をしているマンションがあった。「パークシティ溝の口」がその事例だが、どういった準備をしているのかを紹介しよう。
しかしその前に、このマンションの特殊性について触れる必要がある。「数戸数1000戸超の大規模マンションで、管理組合と自治会が並行して活動していること」、「築年数が経過しているため、高齢者が多いこと」といった特殊性を前提に見てほしい。
このマンションでは、緊急事態宣言の発令を受けて、
・対策本部の立ち上げ
・注意事項等の掲示
・手指洗浄液、消毒液設置
などを行った。
さらに、感染者が発生した場合、
・本人または家族に感染したことの連絡を要請
・感染者が発生したことを居住者に通知
・共用部の消毒のための事業者の手配
・感染者・濃厚接触家族への生活支援
などの準備をしており、担当表(管理組合・自治会・管理会社)の作成などもしているところだ。
感染したことを管理組合に知らせる義務はないが、単身や夫婦のみの高齢者も多いことから、自宅待機の場合に食料品や日用品を各戸の玄関まで届けたいと考えており、そのために本人や家族から連絡をもらって、居住者による支援体制を整えようしている。そのために、本人の同意を得て自宅待機者を把握しておくという考え方だ。
また、消毒事業者がオーバーフローして、保健所から紹介された事業者がすぐには消毒作業を行えない場合も多い。そのため事前に、依頼できる消毒事業者を管理会社と一緒に探しているという。
ここで課題になるのは、分譲マンションに賃貸で住んでいる居住者だ。管理組合は、区分所有者で組織し運営するものなので、賃借人には及ばない。このマンションでは、管理組合(組合員=区分所有者を対象)と自治会(自治会員=居住者を対象)が連携しているので、賃借人も対象として一律の対応ができるのだ。
ここまでできるマンションはまれだと思うが、どういったことが起きるのか、事前に準備できることはないか、などを感染者が発生する前に考えておくことは大切なことだ。
■年に一度の管理組合の総会はどうする?
さて、マンションの管理組合の総会が開催されるのは、例年5月が最も多いという。総会と言えば、大きな会議室に大勢が集まることになり、まさに3密状態になる。そのため、今年は総会を開催するかどうかが一つの問題になっている。
区分所有法で「管理者(理事長)は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない」と定められている。マンションの管理規約に「理事長は、通常総会を毎年1回新会計年度開始以後2カ月以内に招集しなければならない」(標準管理規約第42条第3項)といった規定を置く管理組合も多い。
そこで(公財)マンション管理センターでは、「新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A」を提示している。
通常総会の開催については、法務省が「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、前年の集会の開催から1年以内に区分所有法上の集会の開催をすることができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後、本年中に集会を招集し、集会において必要な報告をすれば足りる」という見解を示している。つまりいったん延期して、収束してから総会を開催してもよいということだ。
ただし、すでに総会を延期したものの延期日に開催できる状況ではない、というマンションも出ている。マンション管理センターのQ&Aでは、通常総会を延期した場合の手続きや注意点に加え、総会会場に来場することなく、議決権行使書または委任状により、議決権を行使してもらうことを勧める方法も推奨している。
ちなみにうちのマンションでは、できる限り書面による議決権行使をするようお願いし、総会を開催することとした。
朝のテレビ番組で、実際にマンションで感染者が発生した事例を取り上げていた。消毒作業について、管理会社は作業をしないし、費用も負担しないといったコメントがあったが、管理会社が何でもやってくれるわけではない。
管理組合と管理会社は「管理業務委託契約」を交わし、それに基づいて管理業務を行っている。感染症対策などは、通常の管理業務の範囲を超えたものになるので、それぞれのマンションで管理会社がどこまで担当してくれるのか、費用負担はどう考えたらよいかを事前に協議しておく必要がある。
だからこそ、あらかじめ感染症対策について、管理組合と管理会社の対応範囲を決めておき、必要な準備をしておくことが大切になるのだ。さて皆さんのマンションは、どうされていますか。(2020.5.12(火) 7:00配信 SUUMOUジャーナル)
マンションは集合住宅であることから災害に対する防災対策も特殊性があります。コロナウイルス対策についても同様です。基本的には管理会社は対応してもらえないという事を前提として組合が対策をおこなうしかありません。予防対策と抑制対策の2本立てで考える必要があります。