大型の台風や地震が多い日本。日本語の日常会話に問題がないように見える外国人でも、災害の経験は少なく、いざというときどう行動すればいいか迷い、孤立してしまいがちです。タイと韓国、二人の女性の視点から、「災害大国」日本の備えを考えました。

「びくともしない」を動かす決意

東京都墨田区にある本所防災館の、防災体験ツアー。「都市型水害」のコーナーで、ひときわ力を振り絞る女性がいました。 タイ出身のダラポーンさん(40)です。 このコーナーは、地下の店や地下駐車場などにいた時、豪雨が発生し、地上から雨水が流入したときのことが体験できます。避難が遅れて、水深約50センチになった場合、ドアにかかる水圧は約190キロともいわれています。成人男性でもほとんど開けることは不可能。豪雨が予想されるときは、地階の利用に注意することを感じてもらうための体験です。 ダラポーンさんは、「びくともしない」はずのドアを、ものすごい力で動かしてしまい、周りの人を驚かせました。 「弟を大学に入れるために、力仕事ばっかりやってきたので」と照れ笑いしました。「でも、災害の本番で、こういう力が出せるかはわからない」 防災体験ツアーには、日本生まれで、まもなく2歳になる息子と参加しました。生まれた直後に、NICU(新生児集中治療室)に入院。2歳になるまで、たびたび手術を受けてきました。「つらくてもあまり泣かない、我慢強い子なんです」と誇りに思います。 その息子が、ツアーの最中、泣きじゃくりました。地震体験コーナーで、震度7の揺れを体験するダラポーンさんを見守っていた時です。体験中、預かったスタッフの腕をふりほどき、「ママー!ママー!」。大揺れの中にいるダラポーンさんの元に駆け寄ろうとしました。 息子を抱きしめながら、ダラポーンさんは「家族を守らなければと思っています」と防災に込める思いを話してくれました。

一人で待つ孤独

ダラポーンさんが災害の時に感じたのは孤独感です。 日本生活は11年になります。日常会話には問題ありませんが、文章の読み書きは難しいと感じています。 2011年3月11日、金曜日の日本語のクラスから帰宅した直後、地震に見舞われました。 日本人の夫とは連絡がつきません。部屋の窓から、お台場の方向に黒煙が上がっているのが見えました。 どうしたらいいのか、わからず、不安に駆られました。でも頼れる友達も近くにはおらず、ただひとり、家で夫が帰宅するのを待つしかありませんでした。 勤務先が遠くにある夫は、勤務先が落ち着いてから徒歩で帰宅。ダラポーンさんが再会できたのは地震発生から24時間後でした。

繰り返したくない「失敗」

その頃、食料の備蓄はほとんどしていませんでした。地震が発生した金曜日は、いつもなら夫と外食。週末に一緒にスーパーに買い出しに行くのが日課でした。 地震発生から1日、スーパーに行ってみましたが、すでに食べ物はありませんでした。先の見通しが立たない中、少ない食料で暮らさなければいけない不安。「これが一番怖かった」と振り返ります。 「あの失敗は繰り返したくない」 いま、2歳の息子は、食事以外にもミルクで栄養補給をしています。いざというとき、子どもにひもじい思いをさせないため、防災体験ツアーの後に、子供が食べられる魚の缶詰など、食料を集めました。 大震災の後、すぐに家族に会えなかったときの孤独感。誰とも話せず、どんどん恐怖が増した記憶が残っています。「子どもがいるから、今はもっと大きい不安があります」 もし、近くにいる人と「大丈夫ですか?」「一緒に、避難所へ行きますか?」と声をかけ合うことができたら、「きっと、一緒に頑張ろうという気持ちになります」。

「明日かもしれません」

韓国出身の安ヒブンさん(42)は、東京都江東区で夫と二人暮らしです。日本での生活はまもなく6年。韓国にも台風や地震がありますが、防災は日本の方が進んでいると感じ、「日本でいろいろなことを勉強したいと思います」と話します。 一方で、ヒブンさんが不安に感じたのは、いざという時の判断です。 2019年10月、東京にも迫った大型台風では、SNSで避難勧告が届きました。 「2階以下に住んでいる人は避難をしてください」という内容でした。ヒブンさんの家は3階。隣の人は避難をしていましたが、自分はどうするべきか判断できず、不安でした。 江東区から配られたハザードマップで洪水の予想を見ると、自分の地域は2階までが水没するエリアでした。「事前に調べておけば、安心できます」 本所防災館では、避難時に持ち出すカバンに入れるものや、備蓄について、熱心に聞いていました。 食べ慣れている大好きな日本のシーフードカップラーメンや、米などを準備しました。 防災館で「200年に1度」の災害について説明する職員にこんな質問をしました。「200年に1度なら、次はいつ起きますか?」 「それは、明日かもしれません」。職員の返答に、ヒブンさんは顔を引き締めました。

やさしさのポイント

日常会話は問題なくても、ニュースの情報がわからなかったり、災害の事前知識がなくて不安な外国人がいます。 周りにいる人に「わかりますか?」「大丈夫ですか?」と声をかけることで、お互いに余裕が生まれます。(2020.9.27(日) 7:00配信 withnews)

北海道胆振地震の時、ホテルに宿泊している外国人の方にインタビューをした記事が新聞に掲載されていました。一番困るのが情報収集だそうです。またスタッフの方も日本語で誘導や説明を行うので理解できない。そういう事態の中で孤独や恐怖を感じるのだと思います。また、避難所運営においても外国人の受け入れを躊躇するケースもあります。多くの外国人が来日される日本においてどのように防災対策を進めていくのかは大変重要な課題だと思います。