大災害を幾度となく経験してきた災害大国・日本。被災者支援の分野でさまざまな取り組みが進む中、見過ごされがちなのが避難所での「性被害」の実態だ。被害者と加害者がともに被災者のため外部に伝わりにくく、泣き寝入りするケースも多い。近年では支援体制が徐々に整えられ、相談窓口も設けられるようになったが、避難所の在り方にも課題を投げかけている。(大渡美咲)

《避難所で夜になると男の人が毛布の中に入ってくる》《トイレまでついてくる。着替えをのぞかれる》《男子が避難所にいる顔見知りの男性に下着を脱がされた》…

平成23年に発生した東日本大震災の2年後、女性支援団体「東日本大震災女性支援ネットワーク」が公表した震災時の女性・子供への暴力に関する調査内容をまとめた報告書には、こんなショッキングな内容が記されている。

「避難所や仮設住宅など、生活の場面での暴力が多かった。被害を訴えることができずに泣き寝入りするケースもあった」。調査に関わったNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」(神戸市)の代表理事、正井礼子さん(70)は、こう指摘する。

ドメスティック・バイオレンス(DV)被害を受けた女性の支援などを行っていた正井さんは、阪神・淡路大震災(7年)を機に女性支援のためのネットワークを立ち上げ、電話相談窓口を開設した。

「ボランティアを名乗る男性に『お風呂に連れて行ってあげる』と言われ(体に)いたずらされた」など、性被害を訴える声が40件ほど寄せられたといい、こうした被害状況を公表。ただ公的機関などの反応は鈍く、警察も「被害届がない」とまともに受け止めてもらえなかった。

東日本大震災の際には、避難所に出入りする助産師やカウンセラー、弁護士と協力し、聞き取り調査を実施。82件もの性被害の事例を確認した。中には、避難所のリーダー的立場にある男性から親切にした見返りに性交を要求されたケースもあったという。「被害女性は『ここでしか生きる場所がないのに誰に訴えればいいのか』と泣いていた」。正井さんは振り返る。

徐々に「被災地での性被害」は周知されるようになり、28年に起きた熊本地震では避難所で性被害に遭った際の相談先などが避難所に掲示されるようになったが、正井さんは「日本社会では『(被災者は)災害に遭ったのだから少々の不自由は我慢すべき』という意識がいまだに強いと思う」と指摘。「災害時でも尊厳のある暮らしが守られるべきだ」と力を込めた。

こうした性被害の「温床」となりかねないのが、避難所の環境だ。

昨年9、10月に日本列島を相次いで襲った台風被害の際も、各地で避難所が開設されたが、仕切りなどがなく、雑魚寝を余儀なくされる避難者の姿も目についた。疲労とストレスなどから体調を崩し死亡する「災害関連死」のリスクはもちろん、プライバシーが守られず、性被害などを誘発しかねない環境といえる。

国際赤十字などが示す、災害や紛争などの被災者に対し人道支援活動を行う各種機関や個人が現場で守るべき「人道憲章と人道対応に関する最低基準」(スフィア基準)では「男女間、異なる年齢グループの間、および家庭内の別々の家族間に求められる安全な分離とプライバシーを、必要に応じて可能にする」と定めている。

内閣府は平成28年に公表した「避難所運営ガイドライン」も、このスフィア基準を参考に作成されており、災害時に開設される避難所での生活の質の向上を目標としている。

こういった動きを受けて近年では、避難所の環境を改善しようという動きも見られる。昨年10月の台風19号の際、宮城県大崎市では避難所となった小学校にテント型の間仕切りを設置し、一定のプライバシーが保たれるようにした。長野県上田市の避難所でも同様の設備が導入された。

避難生活の検証や研究を行う「避難所・避難生活学会」の水谷嘉浩理事は「避難者に肉体的な苦痛を与えないようにすることが大切。国が関与を強め、避難生活を日常生活に近づける努力が必要」と強調。公益財団法人「市民防災研究所」の坂口隆夫理事も「避難所にはさまざまな人が集まる。授乳スペースや高齢者、障害者用スペースを事前に決めておくなど、自治体が中心となり、避難所の利用計画を作っておく必要がある」と提言する。

スフィア基準 国際赤十字などが提唱する災害や紛争時に人道援助を行う際の最低基準。1994年、ルワンダ紛争による避難民が難民キャンプで多数死亡したことがきっかけで定められた。衛生や栄養、避難所などについて言及。避難所に関しては共同トイレは最低20人1基とし、女性用と男性用の割合が3対1となるようにする▽プライバシーを保つために仕切りを設けたり、更衣室を別に設置する-などとしている。(2/18(火) 15:30配信 産経新聞)

避難所生活における性被害は残念ながら後を断ちません。ボランティアスタッフとして避難所に入りこのような事を行う輩がいることも事実なのです。そのような事態に巻き込まれないためにも出来るだけ在宅避難生活がおくられるように防災対策・防災備蓄に取り組みましょう。