東京は昔に比べて断然、人が多くなっています。今、関東大震災と同じような地震がくれば、東京の人口は当時の4倍に増えていますから、単純に4倍の被害になる可能性があります。

世田谷や杉並、板橋などの木造密集地は、火災の猛威がすごいでしょう。それに対して、消防署員が1万8000人ほどの東京消防庁の消火能力では、とても足りません。消防車は渋滞で現場に入っていけず、たどり着けても高層マンションに住む人をどう助けるのか……。横の移動に加えて縦の移動も考えなければなりません。

意外な死角は階段とエレベーター

ビルは不燃化されているので、建物自体は簡単には燃えないでしょう。しかし、意外な死角はエレベーターです。今はちょっとした地震でもエレベーターが止まります。首都直下地震では最大3万基のエレベーターが停止し、住宅やオフィスで最大約1万7000人が閉じ込められるとの想定です。その人たちを助けに行ける人はどれだけいるのでしょう。

2018年の大阪北部地震は震度5~6弱程度の揺れでしたが、6万6000基のエレベーターが止まりました。大阪府内にある保守エレベーター台数は7万6000基程度で、それほど強い揺れではなかったのに、300人以上の人が閉じ込められ、中で腹痛を訴えて、用を足した人もいたようです。東京都内の保守エレベーターは16万基以上です。これから察するに、首都直下地震での想定は過小に思います。

電気も水もなく、狭いエレベーターの中で何日も閉じ込められたら……。最悪、エレベーターの中で餓死する人が出てもおかしくはありません。ぞっとしませんか。

エレベーターが止まれば、階段で移動しなければなりませんが、ビルの階段はかなり狭いのが実情です。非常階段は火災避難のためにあるからです。ある階で火事が起これば、その上下の階は防火扉で閉めて延焼を防ぐ。だから階段の設計は、せいぜい出火したフロアの人が降りられるスペースしか考えられていないのです。

地震の際にビルにいる人全員が降りてくることを想定したら、本来は下の階にいくほど階段の幅が広がっていなければなりません。それができていないということは、上から全員が一斉に降りてくれば、すぐ「ふんづまり」になってしまいます。

大正時代の東京市は200万人ぐらいの人口でコンパクトでしたから、郊外に出ればすぐ誰かに助けてもらえました。歩いていけるところに田舎がありました。東京の外に実家のある人も多かったので、関東大震災後には3分の1の人が田舎に逃げることができました。今は都内以外との人のつながりがなく、孤独な人が増えています。一人暮らしのお年寄りはもちろん、独身男性はコンビニが冷蔵庫だと思っています。それが空っぽになったらどうするのでしょう。人知れず死んでいて、安否確認ができないまま白骨化……しばらく時間が経ってようやく発見される人も出てくるかもしれません。さすがの日本でも、大変な暴動が起きる可能性だってあります。ちなみに、大阪北部地震での6人目の死者は2週間後に見つかった方です。

首都機能のマヒが日本を止める

首都圏では、多くの人が共働きですから、保育園やデイサービスがやっていないと健康な人も出勤ができません。そもそも鉄道の相互乗り入れは便利ですが止まったら大変です。一つの路線が止まれば全体が止まります。社会を維持する人が仕事に出て来られないと、東京に集中する中枢機能がマヒします。東京というヘッドクオーターに頼っている日本全体も機能不全になるでしょう。

政府は最後の砦です。東京電力はそこだけはなんとしても電力を確保しようとするでしょうが、2016年には埼玉県の送電ケーブル火災で霞が関まで停電し、東京の脆弱さがあらわになりました。首都直下地震時は、山手線の輪の中に人を入れさせないようにして、首都機能を維持するしかないかもしれません。

荒川や江戸川の堤防が切れたら、ゼロメートル地帯に住む176万人が孤立します。しかし、その人たちを救えるだけの、消防や自衛隊のヘリはありません。2015年の鬼怒川決壊の時は日本中からヘリが飛んできましたが、首都直下では人数が違います。そんなゼロメートル地帯に、どんどん超高層マンションができています。長期間ろう城できる事前の備えが必要です。もし堤防が壊れて浸水したら、堤防を直してから水を排出するしかありません。そういう修復工事をする多くの会社の本社は東京にあります。しかも低地や日比谷の入り江を埋め立てたズブズブ地盤に位置しています。

ヤバイ場所でも地価は上がる

東京都は「地震に関する地域危険度測定調査」を公表し、「あなたのまちの地域危険度」というパンフレットも出しています。調査は都震災対策条例に基づき、1975年から、おおむね5年ごとに地域危険度を公表していて、2018年は8回目の公表となるそうです。

地震に対する危険度は、市街化区域の5177町丁目に対して「危険度ランク」を5段階で評価しています。町丁目とは「〇〇町〇丁目」の地域単位。ランクは数字が上がるほど危険度が高いことを意味します。地盤の硬軟による揺れやすさの違い、建物の構造による耐震性の違い、建物密集度による火災の延焼危険度の違い、避難や救助に必要な道路や公園の広さなどを考慮して「建物の倒壊危険性」「火災の危険性」「災害時の活動の困難度」を町丁目単位ごとに分析、これらを組み合わせて総合危険度を評価しています。

その結果、2018年度は危険度が最も高いランク「5」が全体の1.6%の85地域。具体的には荒川や隅田川沿いの下町を中心に、足立区、荒川区、墨田区に集中しています。地盤が軟弱で古い木造住宅が密集する地域です。これに加えて品川区や大田区、中野区、杉並区、三鷹市、国分寺市など、鉄道沿線の古い住宅地域でも危険度が高くなっています。

危険度マップの落とし穴

危険度マップと関東大震災の震度分布とを比べてみましょう。さらにイメージが違ってきます。危険度マップでは、前述の九段下や東京駅周辺、そして湾岸地帯が軒並み安全なランク「1」を示すブルーです。スカイツリーの立つ土地もブルーです。なぜでしょうか。それは高層ビルが林立しているエリアだから。私からすれば高層ビルがあるところは危険だとしたいのですが、このマップではそれを避けています。むしろビルのあるエリアは安全だと判断しています。

確かに、超高層ビルは燃えないから、火災危険度は低い。周囲の道路も広いので、消防や救急車両は入りやすい。だから総合点は上がります。でも、長周期地震動で2、3メートルも振り回されるような高層ビル内の揺れについては、何も触れていません。エレベーターが止まったり、ライフラインがこけたりしたら終わりだというような事情も反映されていません。

東京らしいと言ってしまえばそうなのですが、高層ビルの安全神話に則ったマップです。一般の都民に危ない戸建て住宅を直してもらおうという目的ならこれでいいでしょう。しかし、高層ビルに入居するような企業向けではありません。そんな「落とし穴」が見えるマップなのです。

高い階に住むときはそれなりの「ご作法」を覚えるべきです。エレベーターが動かなくなったらどうするのか、停電したらどうするのか。それを考えた備蓄や家具の固定を考えましょう。携帯トイレ、コンロ、乾電池は必要な分を備えておく。非常用の発電機は、室内で使ったら一酸化炭素中毒で死んでしまうので、十分な注意が必要です。

タワーマンションに住んでいる人は、下の階の人と仲良くしておきましょう。地震が来たら上に住んではいられません。下の階の人に助けてもらうために、マンション内の共助システムが必要です。危険度マップには、こんなリスクは入っていません

地域力の弱さが気がかり

東京は魔物のような魅力を持っています。全国から東京に憧れて多くの若者が集まります。毎年、他の道府県から10~20代の若者が24万人くらい転入してくるそうです。全国の大学生290万人のうち、75万人が東京都の大学に通っています。人口比で10%の東京に、大学生は25%もいる計算です。さらに、大企業や官公庁も東京に集中していますので、就職のために若者が集まります。

東京都庁や区役所、消防署の職員と話をしていて、驚くことがあります。多くの人が東京生まれではない。居住地も都外や区外の方が多いようです。地方では、県庁や市役所の職員の多くは地元出身者です。地元出身や居住でないと、地域特性の把握や、土地勘・地元愛などにも差が出てくるのではないかと感じます。公立以外の国立や私立中学の生徒数の比率は、全国平均がわずか8%に対して、東京は25%もあって最大です。地元の小中学校は地域コミュニティーの中心ですが、ただでさえ子どもが少なく、地元の公立学校に通わないようでは地域との関係が疎遠な人が多くなります。災害対応で重要となる地域力の弱さが気がかりです。

さて、最後にもう一度問います。それでも、東京に住みますか?(2019.4.5(金) 9:20配信 IT media ビジネスより一部抜粋)

東京に人口が集中している事実、東京に企業本社が集中している事実、マンションが乱立し、タワーマンションの開発はさらに拍車がかかっている事実、そして現代の東京が直面している首都直下地震は迫っているという事実。東京にすんでいる方はその日に何が起こるのかを真剣に考える必要があります。