7月初め、鹿児島県を中心に大雨が降った際、鹿児島市が市内全域の約59万人に避難指示を出すなど各地で避難指示や勧告が出されました。実際に避難した人も多かったようですが、避難所に着いた際、「満員なので、ほかの避難所に」と言われて、別の避難所に移動した人や自宅に戻った人もいたようです。台風や大雨に避難指示や勧告はつきものですが、全住民分の避難所を確保できている自治体はほとんどないようです。

Q.避難所が「満員」というのは、一般にどのような状態でしょうか。

「各自治体は避難所の設置基準として『1人当たり何平方メートル』という基準を決め、避難所ごとに使える床面積から収容可能人数を出していることが多いです。その人数が避難所に来た状態が『満員』です。ちなみに、毛布や食料の備蓄は、面積の基準に従って人を入れると全く足りないことも珍しくありません。実際に避難してくる人が極めて少ないのが通常だからです」

Q.避難所が満員で入れないと言われた場合、どのようにすればよいのでしょうか。

「そもそも何の目的で避難所に来たのかを考えれば、おのずと答えが出るように思います。自分や家族の命を守るために逃げてきているわけで、そのために最善の選択肢を選ぶべきです。『避難所に来たら、自宅へ戻る道はもう水浸し』ということもあると思うので、『必ずこうしましょう』という答えはありません。そのときにできる最も安全と思われることをする、最も安全と思われる場所に行くというのが正解ではないでしょうか。例えば、満員で入れなかった避難所のある場所がやはり安全なら、そこの軒先でやり過ごすのも一つの方法です。もちろん、他の場所に移動した方が安全なら移動すべきです」。

Q.全住民分の避難所を確保できている自治体はほとんどないと思われます。物理的に入れない可能性があるにもかかわらず、広域に避難勧告、指示を出すのはどうなのでしょうか。

「一つの自治体の中でも、浸水の有無などリスクが場所によって違う場合、理想としては、危険な場所の人だけに避難勧告・指示を出すべきでしょう。しかし、危険な場所が多ければ、複数の場所についての判断を同時に迫られ、判断基準もその数だけ作る必要があります。避難対象かどうかが明確になるような情報発信も必要になり、行政の負担が大きくなるので、現実には対応しきれない自治体も多いと思われます。広域に避難勧告や指示を出すのはやむを得ないことかもしれません。それに、大規模河川が決壊したら、市内がすべて浸水する恐れがある自治体もあります。その場合は、市内全域に指示や勧告を出さざるを得ないでしょう。例えば、埼玉県草加市は、台風接近時や大雨が予想される際、隣の川口市の高台に避難するよう住民に広報しています。避難勧告や指示の目的も、先述の通り命を守るためなので、そこにいたら命が危険にさらされる人に対しては、たとえ避難所へ物理的に入れないとしても勧告や指示を出すべきです。そうした意味では、避難所が足りない状態で勧告や指示を出すことが無責任だとはいえません」

Q.避難所が満員の場合、雨中の移動は危険な場合があります。住民、行政それぞれが取るべき行動は。

「住民は先述のように、そのときの最善の判断をしましょう。自治体は、移動することで命の危険があると判断するなら、満員の避難所であっても、少し詰めてもらって詰め込んだ方がよいですし、移動による危険が少ないのであれば、他の避難所を案内するという選択肢も検討すべきでしょう」

Q.災害時の避難所運営について、自治体側が心掛けるべきことは。

「柔軟に対応することです。定員も厳密でなくてよい場合もあります。ルールの言葉一つ一つよりも、やろうとしていることが『命を守る』という目的に合っているかをまず考えるべきです。周りも、そのとき一生懸命考えて『最善』の判断をして、たとえ結果がネガティブであったとしても責めないことです。非常時なので、計画通り、ルール通りにやっていてはうまくいかないことがたくさんあります。最後に頼れるのは、そこにいる人の考える力、乗り越えようとする力です。それをつぶさないように、固いことは言わずに、柔軟に、臨機応変に最善の対応をしようとすること、そういう人をサポートすることが大切ではないでしょうか」

Q.「満員」という事態に備え、住民は普段から何らかの準備をしておくべきなのでしょうか。

「まず、普段から自宅または職場などが『避難する必要がある場所』なのかどうかを確認しておきましょう。大雨などの際、浸水する場所なのか、土砂災害の危険がある場所なのかということです。不要なら、広域に発せられている避難指示や勧告が出ても逃げなくてよい可能性もあります。そもそも、自分が住んでいる自治体が避難指示や勧告をきめ細かく出すのかどうかも事前に確認しておくとよいです。必要であれば、避難所以外にも、さまざまな避難先を考えておく方がよいでしょう。その場所は、必ずしも公共の場所である必要はなく、親戚や友達の家でもよいと思います。自治体によっては、いざというときに友達や親戚の家に逃げ込めるよう個人協定を結んでおくことを推奨する取り組みをしています。それらの場所は、公設の避難所よりずっと快適でもあります。そもそも、避難所に行くことが最善の選択肢ではない場合もあります。例えば、地震の避難所としては機能する一方、水害のときは逃げてはいけない避難所もあります。しかし、そのことを確認せずに『とにかく近くの避難所』と思っている人も多いのではないでしょうか。東日本大震災では津波に襲われた避難所がありました。低地では海抜ゼロメートルのところにある小学校も多いです。自宅近くの避難所がどういう場所にあるのか知っておくことも大切です」

Q.では、自治体の側が、避難所について普段からやっておくべきことは。

「もともとは指定避難所ではないものの、指定避難所が満員になったら開ける施設も計画しておくとよいです。それが公共施設でない場合は、所有者や管理者との事前協議が必要になるので、その話し合いも進めるべきです。東京都世田谷区は、区内の大学や私立学校と協定を結んでいます。安全で雨風がしのげれば、ショッピングモールでも映画館でもどこでもよいのです。避難の長期化も想定して、車で1時間ほどの距離で同時被災がなさそうな自治体と連携協定を結ぶことも重要だと思います。もう一つ、避難所をスムーズに開けられる準備も大切です。東京都足立区の避難所運営マニュアルには、避難所の窓の写真とともに『鍵を持った人がすぐに来なかったら、ここの窓を割って入ること』と書かれています。『非常時なので、命を守るために普段やってはいけないこともやっていい』というメッセージにもなっています。災害時はさまざまなところが機能不全になっているので計画通りにはいきません。『居合わせた人でどうにか乗り切っていいんだよ。それをやっても怒りませんよ』というメッセージを発信し続けることが重要ではないでしょうか。そうしなければ、皆責任を取らされることを恐れて動けなくなってしまいます。住民が自分で避難所以外の安全な場所も確保できるよう、普段から考えておくことを推奨することも重要です」

Q.災害に備えて、一人一人が心掛けておくべきことは。

「自分の命のことなので、行政に頼り切りではまずいでしょう。繰り返しになりますが、自分の家が危険かどうかは、自分がまず知っておくべきですし、避難場所の選択肢として、避難所以外の『安全で雨風がしのげる』場所を個人レベルで複数見つけておき、行き方も確認しておくことが大切です。また、『避難指示が出たら逃げよう』などと人の判断に頼るのではなく、自分なりに『こうなったら避難を始める』というタイミングも決めておくべきです。避難指示や勧告は子どもや外国人など、自分の身に危険が迫っているかどうかを自分で判断することが難しい人のためにあると思います。自分で判断できる人は自分で考えましょう。今回、満員になる避難所があったことは課題でもありますが、避難した人がそれだけ多かったという意味では良い傾向だと思います。防災・減災を呼び掛ける側は、ほとんどの人が避難してくれず悩んでいたからです。『避難所が満員になることもある』と知った人たちが率先して、満員になるより前に誰よりも早く避難所に行くようになれば、『命を守る』という最も大切な目的が、より確実に達成できるのではないでしょうか」(2019.7.15(月) 6:40配信 大人んサー)

いっとき避難場所・広域避難場所・避難所など名前が違えばその役割も違います。そのときの状況に応じていく場所も異なるということです。日ごろから自分のいる場所はどういう災害リスクがあるのかということを知ることが、いざというときの行動の基本になります。ご自宅、職場それぞれのリスクを知り、避難場所・避難所がどこにあるのかを確認しておきましょう!!