かたい、パサパサ、おいしくない。マイナスイメージがつきまとい、いつの間にか賞味期限切れ…ということも少なくない、非常食。そんな不遇の防災グッズをアレンジし「お店の味」に生まれ変わらせるサービスを、兵庫県西宮市の洋食店「洋食とワインのお店 土筆(つくし)苑(えん)」が行っている。その名も「非常洋食」。そこには、非常食をおいしく食べる機会をつくり、防災バッグの点検や準備につなげてほしい、と願うシェフの思いがこもる。(萩原 真)

ビストロとして1973年、西宮北口にオープンし、ラウンジに姿を変えつつ地元の名士らに愛された同店。近くに大型モールが進出し、若い子育て世帯が増えるなどまちの様相が変わり始めたのを機に、2011年、非常洋食を発案した大谷隆史さん(41)を迎え洋食店として再出発した。今や行列のできる人気店だ。

東京出身の大谷さんは東京、大阪の有名店に勤め、熊本市で1年間、農業も経験。そのころ東日本大震災が起き、16年には熊本地震もあった。身近な人の被災が相次ぎ、福島へ炊き出しに出向いたり、食料品を送ったりしたものの、「元気づけたくても、被災したことのない自分には言葉が見つからなくて」。いつもモヤモヤが残った。

「災害後にできることは少ない。ならば起きる前に何かできたら」と考えるようになり、「期限間近の非常食を無理に食べている」という客の言葉からアイデアが浮かんだ。ただ昨年7月に始めたが、利用はまだ10組程度。非常食を備える家庭がそもそも少ないことが分かった。最近の非常食はおいしく、種類も増えており、そんな進化を「まず知るきっかけにしてほしい」と期待する。

記者もアレンジをお願いすることに。実は、期限が2月に迫りながら完全に存在を忘れていた「アルファ化米」を自宅で“発見”した。まず、パッケージに記載された作り方を大谷さんと一緒に読む。いざというときに慌てないためだ。水やお湯で戻して食べられるが、水だと60分かかると初めて知った。

今回は温めた牛乳で戻し、土筆苑特製のいかすみカレーやチーズを混ぜてリゾットにするという。ややかたい食感のコメが、むしろリゾットには適しているといい、何ともうれしい誤算。パンの缶詰は、ハンバーグを添え「エッグベネディクト」に、そのままだとのみ込みづらいカンパンは、コーヒーと蜂蜜を染み込ませてやわらかくして「黒ごまクッキーアイス」になった。

完成した品はどれも、見た目も味も非常食の面影すらない「プロの洋食」。これまで利用した人たちが「非常食はまずいというイメージがあったが、予想以上においしかった」「非常食を捨ててしまうのはもったいない」と口にするのもうなずけた。

持ち込まれた食材は客の好みも聞きつつ可能な限りアレンジする。乾燥納豆が和風グラタンに生まれ変わったこともある。

心がけているのは、奇抜な創作料理にはせず、オムライスなどみんなに親しまれているメニューにすることだ。「あのときの、非常食で作ったオムライスがおいしかった」。防災の大切さを最も伝えたい子どもたちの記憶に残るように-。(2020.1.15(水) 10:22配信 神戸新聞NEXT)

非常食の概念は大きく変わっています。家庭ではローリングストックが推奨されています。ローリングストックとは日常的に食べているものを少しづつ備蓄していくことをいいます。わざわざ保存期間の長い防災食は必要ありません。今一度防災職について各家庭ごとにどのように準備するのかを考えてみてください。