2000年までの木造一戸建ての9割が耐震性を満たしていない

まず、木造一戸建て(在来工法・2階建て以下)の耐震性はどうなっているか確認しよう。木耐協は、1950年~2000年5月までに着工された木造一戸建てについて、2006年4月~2019年7月までに耐震診断を実施した結果をまとめている。耐震基準は建築確認が1981年6月の前か後かで大きく異なり、「旧耐震基準」と「新耐震基準」に分かれる。

その結果、全体で9割を超える(91.38%)住宅が、今の耐震基準を満たしておらず、旧耐震基準の住宅ではその割合(97.25%)が高まるという結果になった。

なお、新耐震基準の住宅でも85.76%が今の耐震基準を満たしていない。実は、木造住宅の場合は、2000年6月以降(建築確認)にも、耐震基準に変更があった。耐力壁をバランスよく配置したり、構造部分の柱などの端を接合する部分をしっかり固定できる金物を使うようにしたり、といった改定が行われたので、「2000年基準」より前の新耐震基準住宅には、今の基準より耐震性に弱い部分があるのだ

では、耐震補強工事の費用はどのくらいになるのだろう?

さきほどの調査結果では、耐震補強工事の費用は次のようになった。
旧耐震基準(平均築年数45.69年) :平均金額189万315円・施工金額中央値160万円
新耐震基準※(平均築年数28.86年):平均金額152万4351円・施工金額中央値125万円 ※2000年基準以前

■耐震補強工事をしないのは、工事費用が高いから?

木耐協では、耐震診断の実施終了後にアンケート調査を実施している。
「今後、耐震補強工事をお考えですか?」の問いに「いいえ」と回答した人に、「耐震補強工事を考えにくい理由」を聞いたところ、半数近くが「補強費用が高い」と回答した。

「耐震性が十分だった」のであれば必ずしも耐震補強工事をする必要はないし、「建て替え」によって耐震性の高い家に住むつもりであれば工事は不要だ。ただし、「地震が来たら仕方が無い」というのは、いかがなものか。巨大な地震が生じたときに、家が倒壊して家族の命が奪われたり、助かった後の生活を支える一切のものを失ったりする可能性が考えられるのに、100万円台の補強工事の費用を惜しんでよいのだろうか。

■予算は200万円までに抑えたい!実際の工事金額は……?

木耐協の調査では、耐震補強工事を検討している人に、「耐震補強工事の予算感」を聞いている。
予算感としては「50万円未満」(19.33%)、「50万~100万円未満」(33.19%)、「100万~200万円未満」(26.47%)となり、おおむね200万円未満を想定している人が多いことが分かる。

一方、実際に補強工事を行った金額を集計し、予算感の割合と比較したところ、予算感よりも「50万円未満」や「50万~100万円未満」が減少し、「100万~200万円未満」以降が増加する結果となった。調査結果を見る限りは、全体的に予想した金額より工事費用が高くなる傾向が見られる。「補強工事費用が高い」と感じるのは、費用そのものの額もあれば、予想額より高いといったこともあるのだろうか。

■予算に応じた補強工事を検討して、リスクを軽減しよう

これに対して、木耐協は「予算に応じた補強工事を行う」ことも勧めている。

耐震診断の「(1)倒壊しない」に引き上げるまで補強工事をするのが理想だが、そこまで費用を捻出できないと断念するのではなく、捻出できる費用でできるだけ補強することのほうが、リスク軽減には有効だ。

例えば、耐震補強で効果が大きい工事はいくつかある。
・構造上の柱などの接合部に金物を取り付ける
・耐力壁を追加したり、筋交いなどを補強したりする
・腐朽や蟻害で弱くなった柱や土台を強化する
・土瓦の屋根を軽量なものに葺き替える

まず、建物の構造自体を強くすることで建物を揺れに強くすることが大切だ。ほかにも、重たい屋根を支えるには強固な構造が必要だが、屋根を軽量化することで負担を減らすことができる。これらをすべて実施するだけの費用を負担できないとしたら、優先順位の高いものから実施するという発想も必要だ。ちなみに、先に挙げた方法(金物の設置→屋根の軽量化)ほど費用が安くなる傾向にある。

また、住宅の耐震性向上は国策でもあるので、耐震診断や耐震補強工事に補助金を出す自治体も多い。特に、旧耐震基準の住宅への助成制度は手厚くなっている。しかしなかには、新耐震の住宅でも一定の耐震補強をすれば補助金を出す自治体もある。補助金などの制度を利用して、費用負担を減らすということも、ぜひ検討してほしい。最近は、地球温暖化の影響で台風による水害も増えている。もし、台風が通過する地域に住まいがあるなら、それも踏まえて屋根の補強を検討するなど、総合的に住まいの安全性を考えることも求められる。重要なのは、ハザードマップなどで自分の住まいがどんな災害リスクの可能性があるかを把握し、それに対して自分の住まいがどういった状態かを専門家に見てもらい、予算内でどこまでリスクを軽減するための対策ができるかを検討することだろう。命や財産を守るために。(2019.10.30(水) 8:00配信 SUMMOジャーナル)

旧耐震基準や2000年基準をクリアしていない建物が地震対策のために耐震補強工事を行うことは正に正論です。しかしながら経済的理由や家庭的事情で取り組むことが出来なかったり、補助金・助成金のことを知らない、あるいは手続きが難しくどうしていいのかわからないというケースもたくさんあるのです。こういう人たちのためにどういう支援をするのかを真剣に考えることが必要です。残念ながらこういう問題に対して国や自治体は全くといっていいほど動きません。仕組みを作ったら終わりなのです。われわれ民間の企業や個人が知恵を出し合い共助の精神で取り組む必要があります。