島根県西部の地震と大阪府北部の地震

昨年6月18日7時58分、大阪府北部の震源深さ13kmでM6.1の地震が発生し、最大震度6弱の揺れを記録しました。震度6弱となったのは、大阪市北区、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市の5区市です。この地震による死者は6人、負傷者443人、住家被害は、全壊21棟、半壊454棟、一部損壊56,873棟でした。

昨年の4月9日には、島根県西部の深さ12kmで、同じM6.1の地震も発生しました。この地震の最大震度は太田市の5強、住家被害は、全壊17棟、半壊58棟、一部損壊576棟です。

2つの地震は、地震規模、震源深さがほぼ同じでしたが、最大震度は5強と6弱、住家被害は大きく異なります。なぜでしょうか?

大阪府と島根県の家屋被害の違い

大阪府と島根県の人口は882万人と68万人です。人口は13倍なのに、住家被害は88倍と遥かに多く、人口当たりの住家被害は7倍にもなります。両府県の面積は1,900km2と6,700km2、島根県は大阪府の面積の3.5倍なので、大阪府の人口密度は46倍です。人が集まる結果、地盤条件が良くない場所に、高層の建物が密集して建築されます。2018年3月末時点のエレベータの保守台数が、大阪府の75,667基に対して島根県が2,200基と、人口当たりのエレベータ数は3倍です。揺れやすい軟弱な地盤の上に、揺れやすい中高層の建物があれば、建物が良く揺れ、被害も多くなります。

大阪府と島根県の消防力

大阪府の消防職員数と消防団員数は10,118人と10,502人、島根県は1,178人と12,018人です。島根県の方が、人口当たりの消防職員数は1.5倍、消防団員数は15倍も多く、消防力に大きな差があります。一般に、人口が集中する大都市は、消防力が少ないため、災害時には救命・救出の力が不足します。被害が大きく出やすい大都市の消防力が相対的に低いことは、自助の大切さを示しています。

大阪府と島根県の最大震度の違い

大阪府と島根県に設置されている震度観測点数は、88と71です。両府県の面積は3.5倍異なるので、震度観測点の密度は4.4倍になります。観測点が沢山あれば、震源の近くの揺れが記録しやすくなります。また、軟弱な地盤では揺れが大きく増幅されます。島根県と大阪府の観測点を比較すると、大阪府の観測点は平均的に1.5倍くらい揺れやすいようです。人口が集中する大阪では、軟弱な地盤にまちが広がり、そこに立地する震度計が強い揺れを記録することになります。この結果、人口が集中する大阪では、震源に近いところに震度観測点があり、軟弱な地盤の観測点も多いため最大震度が大きく評価されがちになります。

阪神・淡路大震災との比較で分かる最大震度のマジック

M7.3だった1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、大阪府の最大震度は4、揺れによる大阪府内の住家被害は、全壊895、半壊7,232、一部損壊88,538棟でした。大阪府北部の地震では、24年前より最大震度が2つも大きいのに家屋被害が減り、耐震化の成果のように見えます。ですが、実は24年前の大阪府内の震度観測点は大阪管区気象台のある大手前の1点のみでした。この観測点は台地の上にあり、揺れが増幅されにくい場所です。昨年と24年前の大手前の揺れを比較すると、昨年の揺れは24年毎の揺れに比べ1/3程度でした。ですから、被害が小さいのは耐震化の成果とは言いにくいようです。

増える震度観測点

震度計が多数整備された結果、震源からの距離が近く、軟弱な地盤の観測点が増えたため、最大震度が大きく評価されるようになりました。日本の震度観測点は、阪神・淡路大震災が発生したときには350点程度だったのが、1997年に1,000点を超え、1998年に2,000点、2001年に3,000点、2006年に4,000点を超え、現在は4,373点にも及びます。内訳は、気象庁が669点、地方公共団体が2,915点、防災科学技術研究所が789です。ちなみに、1,000 km2当たりの震度観測点数は、最大の東京都は59.7点、最少の北海道は4.3点で、両都道で14倍もの差があります。観測密度が高ければ、震源に近い所に観測点が存在しますから、東京では他地域より強い揺れが観測されやすいということです。(2019.6.3(月) 7:00  福和伸夫  | 名古屋大学減災連携研究センター、センター長・教授)

都市部に人口が集中することによる弊害は様々な視点からも指摘されています。防災力に関しては人命に関わる案件です。被害軽減において一番効果の期待できるものは住民の防災意識向上です。人が多く集まることで人間関係が希薄になりがちですが、今こそコミュニティー形成が重要です。