地盤沈下で海抜以下になっている東京、大阪、名古屋の3大都市に広がるゼロメートル地帯のハード整備
「首長自ら『ここにいたら危ない』と言わざるを得ないほど追い詰められる最大の要因は、ハードの整備が追いついていないから。民主党政権時代の事業仕分けでスーパー堤防などがバサバサ切られてから、一切復活していないのです」
工業用水確保のために地下水を汲み上げすぎて地盤沈下したゼロメートル地帯は東京、大阪、名古屋に現存する。居住人口は計約404万人にのぼり、経済活動などへの影響も計り知れない。大阪証券取引所が6年前に統合され、日本の株式売買のほぼ100パーセントを占める東京証券取引所(東京都中央区日本橋兜町)も、水害時には約1.5メートル水没するとみられている。
一方で東京都が拡張整備を進めている環状7号線地下広域調節池は、1時間あたりに耐えられる降水量を現状の50ミリから75ミリに増強、場合によっては100ミリもカバーするという。貯水総量も現在の約54万トンから、倍以上の約120万トンにし、世界最大の地下貯留池にしようという壮大な計画ではある。しかしこれは武蔵野台地上の神田川、妙正寺川、善福寺川という中小河川が対象で、山手地域の水害対策にしかならない。
西の武蔵野台地と東の下総台地に挟まれる低平地の対策が全くできていない。隅田川も荒川もいつ崩れてもおかしくない薄っぺらなカミソリ堤防であり護岸。ゼロメートル地帯とは洗面器の底に都市があるわけで、洗面器の縁がそんな薄っぺらな堤防では、地震で壊れたりすれば雨が一滴も降らなくても洪水になってしまうという。
「本来、必要な箇所はスーパー堤防や十分に幅の広い壊れない堤防で守るべきです。国家として首都や、経済都市大阪・名古屋を守るというハード整備が、はっきり言ってこの20年ないがしろにされている。『逃げろ逃げろ』だけでは防げません」
ハードを整備した上で、最適な避難行動はどうあるべきかを考える。そうしたハードとソフトのバランスのとれた整備が不可欠だろう。1755年のリスボン地震で、世界最強を誇った海洋国家ポルトガルがイギリス、オランダに抜かれ、いまだに国力を回復していないように、日本も一つの災害、水害が国家を危うくする可能性さえある。その究極の対策が、ゼロメートル地帯を放置しないことだ。
「大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭の典型7公害のうち、最も対策が遅れているのが地盤沈下です。長い目で見れば、東京でも50年ぐらい前から高台化対策をやっていて、80ヘクタールの葛西臨海公園(江戸川区)や、約100ヘクタールの亀戸・大島・小松川地区の防災拠点(江東区・江戸川区)の中にも24ヘクタールの高台(大島・小松川公園)を造った。他にも根本的な高台化対策には営々と取り組んではいますが、十分とは言えません」
地球温暖化による気候変動のスピードも速まった。九州、西日本を中心に大きな水害が毎年のように起こる。深い岩盤ごと崩れる「深層崩壊」などこれまで以上に深刻な被害も、いつどこで起こっても不思議ではない。米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)がハリケーン対策で300万人を避難させたような、国家的な避難行動を日本でもやらなければならない時代が実際にやってきたのだ。江東5区の「24時間前に250万人を避難」はまさにその危機が目前に迫っていることの表れだろう。
「東京、大阪、名古屋のゼロメートル地帯を全部元どおりにはできないとしても、地域内の住民がとりあえず逃げられる『命山』を造るべきですね。大島・小松川公園ぐらいの、1カ所20~30ヘクタールの避難高台地をあちこちに造ることを直近の目標にし、あわせてスーパー堤防も整備していくことが求められます」(2019.7.12(金) 7:00配信 AERAdot.)
防災対策はHard対策・Soft対策・意識向上対策の3つが並行して進む必要があります。Hard対策は基本中の基本です。