“災害大国”と呼ばれるほど、日本はさまざまな自然災害に見舞われる。命が脅かされるほどの災害が起きるケースも珍しくない。大災害時代を生き抜くために必要なポイントを専門家に聞いた。(清談社 真島加代)
■年々激しさを増す 自然災害の脅威
夏は集中豪雨、秋は台風、冬の豪雪、予測できない大地震……と、一年を通してさまざまな自然災害が発生する日本。旭化成ホームズ株式会社くらしノベーション研究所顧問・松本吉彦氏は「とくに最近は、災害の激しさが増している」と話す。
「多くの人が体感しているように、年々自然災害の回数が増え、規模も大きくなっています。国内の震度5以上の地震発生回数は、2010年から約9年間で178回。これは、1980年代の約9倍に相当します。同様に、集中豪雨や竜巻の発生回数も大幅に増加していますね」
とくに“土地の伝統的な防災の考え方に反する災害”が発生すると、被害が大きくなる傾向があるという。「阪神・淡路大震災の被害の特徴にも、関西地域の住宅事情が関係している」と松本氏。
「関西地方は台風の被害を受けやすいので、屋根が飛ばないように重い瓦を使っている住宅が多くありました。重い瓦の固定は、上に載せるだけが普通なので、震度7の揺れで瓦が落ちたり、屋根の重さで建物が倒壊したりと、甚大な被害を受けてしまったといわれています」
一方、関東地方の住宅は、関東大震災の経験から屋根を軽くしているため、比較的地震に強い傾向があるそう。
「ただ、関東地方の住宅は耐震力がある半面、台風に弱いという特徴があります。そのため、2019年の台風15号のときのように、千葉県では大規模停電や建物損壊などの被害が出てしまいました。想定と異なる災害が起きると、被害が大きくなってしまうのです」
■在宅避難に必要な 3つの条件
いざ被災したときに「避難所に行く」か「在宅避難する」か、どちらかの選択を迫られる。松本氏は、以下の3点の安全性が確保できない場合は「在宅避難ではなく避難所に行ってほしい」と見解を示す。
1:土地の安全
2:家の安全
3:部屋の安全
まずは、今住んでいる土地の安全を確認する必要がある。
その指標になるのが「ハザードマップ」。ハザードマップとは、過去の災害の知見から、自然災害時に被害が発生する地点や被害の規模、避難場所などの情報が記載されている地図だ。
「ハザードマップは、自治体によってマップの表記や種類が異なります。マップの種類がひとつの地域もあれば、一級河川の多摩川がある世田谷区のように『多摩川洪水版』と『内水氾濫・中小河川洪水版』が別になっているケースもありますね」
内水氾濫とは、マンホールから下水があふれることを指す。世田谷区に住んでいる人は多摩川洪水版だけでなく、「内水氾濫・中小河川洪水版」のマップも注視する必要があるという。
「とくに都会の下水や中小河川は、集中豪雨の場合、雨が降り出してから約1~2時間ほどであふれてしまいます。地形や条件によっては、30分ほどで一気に浸水する地域もあります。ハザードマップが複数ある場合は、どちらもしっかり確認しましょう」
また、ハザードマップは頻繁に改定されるため、こまめにチェックしてほしい、と松本氏。災害を経験するたびに土地が抱えるリスクも変化していくのだろう。
「台風や豪雨が発生したときは、情報の入手や周辺観察を心がけましょう。ハザードマップで自宅近辺に浸水や土砂災害のリスクがあることを事前に知っていれば、早めに避難できるはず。ただし、夜間の避難や水が膝上まで深くなっている場合の移動はNG。急な浸水で避難ができなくなったら、建物の2階以上の高い場所に逃げましょう」
タイミングの見極めは難しいが、自分の地域に「避難指示」が出た場合は、コロナ禍でも迷わず避難所に行くのが鉄則だという。
■家の安全性の判断は 新耐震基準で行う
2つ目の「家の安全確認」は、主に地震災害に関連する条件。もっともわかりやすいのが、“いつ建てられたか”を確認する方法だ。
「建築基準法で定められた壁量の規定は1950年以降2回強化されています。1959年以前は現状の41%、1980年以前は72%の量の規定なので、この期間は合法でも耐震性が不足している可能性が高い。
1981年の規定は、新耐震基準と呼ばれ、これを満たしていれば安全と考えていいでしょう。さらに壁の量を現行規定の1.5倍相当としたものが住宅性能表示における『耐震等級3』です。大地震時の損傷が少なくなることが期待できます」
建築基準法では「震度5強までは壊れてはいけない」とされ、地震発生後も安全に住み続けられるという。さらに、震度6以上の地震が起きたときは「倒れないこと」が最低条件。家そのものが傾いてしまっても、人命が守れればよいという考え方である。
「従って、床の傾き、柱の傾き、屋根のうち、どれかひとつでも問題が見つかったときは、要注意。床にゴルフボールを置いて自然に転がる場合は、床が大幅に傾き、地盤が崩れている可能性があります。プロでなければわかりませんが、柱が8~12cm傾いていたら倒壊寸前。すぐに避難が必要と考えてください」
雨が降ったときに、天井に水が染みていたら防水性に問題あり。台風によって屋根の瓦が飛んでいたり、穴が開いていたりするので補修が必要だ。
そして、在宅避難に必要な3つ目の条件は「部屋の安全」。
これは、地震に備えて家具の固定や配置を変えるなど、日頃から意識できる点が多いという。
「なかでも、倒れやすい本棚は置き場所に注意しましょう。ベッドなど人が寝ている場所で本棚が倒れないレイアウトや、ドアの開閉を塞がない位置に置くのがポイントです。倒れた本棚がドアを塞いで避難ができない、というケースも珍しくありません」
家具の固定は、壁と家具をL型金具とネジで留めるのがおすすめだ。
「一時期、家具と天井の間に入れる『突っ張りポール』が流行しましたが、突っ張る面積が小さいので固定力が低いことがわかっています。天井が変形すると、突っ張りポールは外れてしまうようです」
家具固定アイテムは続々と登場しているそうなので、本稿を機に部屋の耐震術を見直すのもアリだ。
■台風や大雨のときは、どのように部屋の安全を確保すればよいだろうか。
「強風に飛ばされたスリッパは、窓ガラスを割るほどの威力があるという実験結果が出ています。台風の上陸が予想されている時点でベランダスリッパや植木鉢など、風に飛ばされそうなものは室内に移動しましょう。シャッターがある家庭は、早めに閉めておくと安心です」
また、多くの人の盲点になっているのが「ベランダの排水口」だという。
「台風が来る秋は、落ち葉が排水口に詰まりやすい時期です。集中豪雨や台風が来たときに排水ができず、ベランダに水があふれて室内まで浸水する可能性があります。普段からベランダの排水口掃除を心がけるのはもちろん、台風や大雨の予報が出たら落ち葉をすべて取り除きましょう」
■在宅避難で重要な 3つの事前準備
このように、土地、家、部屋の安全が確認できてはじめて、在宅避難が可能になる。在宅避難の事前準備では「食料と水の備蓄」「トイレ」「エネルギーの確保」が肝になるという。
「備蓄食料は、乾物やレトルトなどの常温保存食をストックしておくと安心です。おすすめは『ローリングストック法』。災害専用でなく、日常の保存食を賞味期限が近いものから消費して、常に一定量備蓄できるよう補充しておく方法です」
「トイレ」は、簡易トイレの常備や、常時風呂の水をためておくこと。いざ被災したときに排泄物を流す水に使えるなど、メリットが多い。
「最後の『エネルギーの確保』は、太陽光発電と家庭用蓄電池を活用する方法です。日中に太陽光で発電した電気を蓄電して夜に使うサイクルを繰り返せば、停電が長期化しても在宅避難が可能になります。最近では、防災や自家消費目的として太陽光発電を導入する人が増えてきています」
年々、災害の規模が拡大している今、「住宅のトレンドにも変化が起きている」と、松本氏は話す。
「以前は、大規模な災害はめったに起こらなかったので、住宅は『災害時に命を守ること』を目的に作られていました。しかし最近は、『災害後も暮らせる・復旧できる家』が求められるようになっています。とはいえ、気軽に家を建て替えることはできないので、ハザードマップの確認や家具を固定するなど、一人ひとりが防災意識を高めるだけでも被災のリスクは低くなると思います」
深刻さを増す自然災害も、備えあれば憂いなしだ。(2020.11.23(月) 6:01配信 DIAMOND online)
コロナ禍の現代において災害発生時の在宅避難が注目されています。しかしながら在宅避難を可能にするためには事前の準備が必要です。記事にもあるとおり、そもそも在宅避難が可能なエリアであるかどうかをハザードマップで確認する必要があります。次に建物の安全性の確認、これは建物の建設された日が新耐震基準適用日以降かどうかを確認しましょう。そして最後に備蓄準備です。3つの条件がすべてそろって在宅避難を選択できる可能性があるという事です。