連続地震に対応していない耐震基準
熊本地震では、耐震化は進んでいましたが、前震で傷んだ建物に本震が襲ったため、大きな家屋被害になりました。現行の耐震基準は、一度の強い揺れに対して人命を守ることを前提にしています。耐震設計は2段階設計になっていて、建物の共用期間中に数度受ける中小の揺れに対しては無損傷、一度受けるかどうかの強い揺れに対しては、空間を残して人命を守れば、建物は壊れても良いとしています。このため、前震での強い揺れで損壊した建物は、本震での強い揺れで人命を守ることを保証できません。このため、多くの庁舎や病院は、地震後、継続使用ができなくなりました。防災拠点にするような建物は、低層の壁式構造とし、強い揺れを受けても無損傷となるような設計が望ましいと思います。
思いもかけなかった長周期パルス
西原村役場に設置されていた震度計で観測された揺れに、多くの建築構造技術者は驚きました。上下方向と水平方向に数メートルも大きく変位した記録だったからです。活断層の直上だったので、活断層のずれそのものが現れた記録でした。こういった記録が国内で観測されたのは初めてでした。こういった揺れを建物が受けると、柔道で足払いされたようになります。どんな揺れなのか、簡単な実験をしてみます。細い紐で50円玉をぶら下げた振子を作ってみて、紐の長さを変えながら実験してみましょう。
50円玉と紐の振子で実験
振子を持つ手を横にすっと少し動かしてみると、50円玉は手の動きに直ぐに追従せずに、少しのあいだ元の位置に留まった後に揺れ始めます。これは50円玉が元の位置に留まろうとするからです。高校の物理で習った慣性抵抗です。紐の長さを変えて、長い振子と短い振子で比較してみてください。手の動きが少ないときは、短い紐の方が振子の角度が大きくなって強く揺れ、長い紐の振子は角度が小さいので揺れが目立ちません。つぎに、手を動かす速度は同じにして、大きく横に動かしてみます。すると、短い紐の50円玉は角度が大きくなれず、手の動きにと一緒に動くので、揺れは余り大きくなりません。これに対して、長い紐の50円玉は元の位置に留まりやすいため、大きく揺れ続きます。
活断層直上の高層ビルや免震ビル
手を移動させる速度や手を動かす量を変えてみると、50円玉の動きが全く変わることが分かると思います。この実験は、活断層が横にずれた時の断層直上の建物の揺れを再現したものです。普通、断層がずれる速度は1m/s程度で、規模の大きな地震では地盤は何mもずれます。1995年兵庫県南部地震(M7.3)のときに淡路島に現れた地表ずれは1m程度でしたが、1891年濃尾地震(M8.0)のときには8mにも及びました。地震の規模が大きいと、断層がずれる量も大きくなり、ずれるのに時間もかかります。この結果、長い周期の高層ビルや免震ビルが大きく揺さぶられます。この現象をフリングステップと呼びますが、今までは、設計では余り考えられてきませんでした。いま、各所でその対策が練られつつありますが、まだ、十分な解決策はありません。 この長周期パルスは、内陸の活断層が大きな地震を起こした時に生じる問題です。高層ビルが林立する大都市でも、台地と低地の境界などに活断層が潜んでおり、大阪の中心に南北に走る上町断層もその一つです。活断層が地震を起こすことは滅多にありませんが、高層ビルや免震ビルには重要な施設がたくさん入っているので、十分に注意をしたいものです。(2019.4.15(月) 7:01配信 名古屋大学減災連携研究センター、センター長・教授:幅和伸夫)
地震は何がおこるのかわかりません。想定外が起きて当たり前と考えたほうが無難です。熊本地震で初めて観測されたフリングステップ!!この現象が次に起きない保証はどこにもありません。