エレベーターの閉じ込め

昨年6月18日7時58分に発生した大阪府北部の地震では、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県で、6万6千基ものエレベーターが緊急停止し、339件の閉じ込めがありました。府県別では、大阪府267、兵庫県41、京都府25、奈良県5、滋賀県1で、最大震度7の揺れだった東日本大震災の210件や、熊本地震の54件を大きく上回りました。

実は、地震時管制運転装置が設置されているエレベーターでも155件で閉じ込めが起きました。最寄り階に着く前に強い揺れが到来したためのようです。P波検知から主要動到達までの猶予時間が少ない直下の地震での課題と言えそうです。 閉じ込められた人の救出には、通報後、最大約320分、平均80分がかかり、多くは180分以内に救出できたそうです。高層ビルのエレベーターでは、非常用収納BOX内の携帯トイレで用をたした人も出たようです。時間がかかった理由の一つは交通渋滞です。

半数以上のエレベーターが緊急停止

大阪府の最大震度は6弱でしたが、実はビルが林立する大阪府や兵庫県の市街地の揺れは震度4程度でした。大阪府内にあるエレベーターの保守台数は2018年3月時点で75,667基(全国2位)、兵庫は37,587(同5位)ですから、震度4程度の揺れで半数以上のエレベーターが停止したことになります。ちなみに、深夜3時8分に発生した北海道胆振東部地震では、北海道内の保守対象エレベーター26,626基のうち、札幌市内だけで約9000基が緊急停止し、23件の閉じ込めがあったそうです。昼間だったら大変な数になったと想像されます。

緊急停止の原因

国土交通省によると、エレベーター停止の原因は、揺れの感知による地震時管制運転装置の作動による停止や、停電による停止が主だったようです。停止したエレベーターは、原則、専門の技術者が安全性を確認して復旧しますが、復旧は2~4日で終了したようです。エレベーターの停止や閉じ込めの状況については、保守管理事業者が遠隔監視装置で把握していたようです。遠隔監視装置は3/4程度のエレベーターに設置されているそうですが、通信が途絶すると監視はできません。また、故障したエレベーターは約800台でしたが、ガイドレールからのガイドシューの外れや、主ロープの損傷等が原因でした。

エレベーターの地震対策の現状

日本エレベータ―協会によると、保守をしているエレベーターの台数は2018年3月時点で748,521基、数の多い10の都道府県は東京都164,984基、大阪府75,667基、神奈川県61,117基、愛知県51,654基、兵庫県37,587基、福岡県32,130基、埼玉県32,773基、千葉県27,158基、北海道26,626基、静岡県18,192基です。エレベーターの地震対策は、2009年以降に本格化しました。緊急停止については、建築基準法施行令によって、揺れを感知したら最寄り階で自動停止する「地震時管制運転装置」の導入が義務付けられました。地震感知計がP波の揺れを検知したら最寄りの階に停止してドアを開く仕組みです。地震時慣性運転装置が付いているエレベーターは562,077基ですから、まだ、1/4程度のエレベーターが未対策になっています。これに加え、今では、かごや釣合おもりがガイドレールから外れることの防止、ロープが滑車から外れることの防止、釣合おもりが脱落することの防止、駆動装置や制御器の揺れによる転倒・移動の防止などのハード対策も義務化されています。

早期の救出が困難な首都直下地震や南海トラフ地震

中央防災会議の作業部会による被害想定では、首都直下地震では最悪、エレベーターの停止は30,100基、閉じ込め人数は17,400人、南海トラフ地震では停止41,900基、閉じ込め人数22,500人と試算されています。大阪の経験を踏まえると、これらの停止数は過小だと感じられます。東京都の消防職員の数は1万9千人程度です。大規模火災が発生すれば消防は消火を優先します。道路の渋滞や停電も予想され、早期の救出は困難だと想像されます。南海トラフ地震臨時情報が発表されたとき、三大都市圏のエレベーターの利用を躊躇すれば、地震が起きなくても、エレベーターに頼る役所、企業、病院などは機能不全に陥ります。

望まれる更なる地震対策

エレベーターの地震対策には、地震時管制運転装置に加えて、緊急地震速報を受信した際に管制運転をする「緊急地震速報連動管制運転」や、緊急停止後に遠隔監視で自動診断運転を行って仮復旧運転する「自動復旧運転機能」、安全装置の復帰を確認したら管理者が最寄りの階まで移動してドアを開く「緊急救出運転機能」などもあります。また、停電時のために、最寄りの階に移動してドアを開く「停電時自動着床装置」、自家発電機を利用した「自家発時管制運転」なども利用できます。制御までの時間が十分にとれない直下の地震では、緊急地震速報を活用した装置が効果的です。また、高層ビル用では、長周期地震動の検知が望まれます。さらに、南海トラフ地震臨時情報発表に備え、長周期地震動に対応した緊急地震速報の早期導入が期待されます。

念には念を入れて

どんなにハード・ソフトの備えがあっても、機械は作動しないこともあります。まずは、エレベーター内で揺れを感じた時の基本だけは忘れないでおいて下さい。

1)すべての階のボタンを押す。

2)インターホンで通報する。

3)停電してもあわてず救助を待つ。の3つです。

また、万一、閉じ込められたときに備え、エレベーター内に非常用の防災キャビネットを備えておくこともお勧めします。水、食料、トイレ、ライト、電源などを備えた三角形のボックスです。(2019.6.10(月) 7:00  福和伸夫  | 名古屋大学減災連携研究センター、センター長・教授)

防災対策に限らず機械に全てを委ねることは危険です。機械が正常に機能しなかった場合の想定を常に考えておきましょう。エレベーター内にEV椅子など防災キャビネットの設置は絶対です。