自然災害を防ぐための“防災常識”は、時代とともに変化していることをご存じでしょうか?

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の変化とともに、防災常識も適時変化してきています。昔の常識は、今の非常識となっている要素も少なくないもの。ここでは“地震対策(防災)”要素のひとつ「水の確保」に関する最新常識を防災アドバイザーの榑林宏之さんにご紹介いただきました。

地震対策(防災)の最新常識:水の確保

「水の確保」は、昔も今も最も大切な「防災対策」です。特に地震災害が発生したときには、「給水遮断(障害)」が生じやすく、水を常備しておくことが防災対策上、必須な要素となっています。ただ、そんな「水の確保」に関して、昔の常識(対策)と現在の常識にて、大きな違いが存在しています。変化のあった防災常識(水の確保)を中心に、最新の「水の確保」に関する情報をご紹介したいと思います。

昔は、地震により、給水が絶たれたときのためにと「入浴後に浴槽のお湯(水)を溜め置きしておく」ことが推奨されていました。今でも、地震防災対策のためだけでなく、水の有効活用(洗濯用の水として再利用)という観点から浴槽に水をためておく方もいるようです。

しかし現在、最新常識として、推奨されているのは浴槽に水(残り湯)を溜め置きしないということです。

健康を害する危険なウィルス・細菌の発生源に!

実は、お風呂の残り湯を一晩溜め置きすることによる健康リスクがあることがわかってきたからなのです。

*レジオネラ属菌によるレジオネラ症という感染症による被害が報告されています。主に介護施設や入浴施設などにて、増加傾向となっている感染症ですが、一般家庭においても、レジオネラ感染症が発生するケースがあるのです。
お風呂の水を一晩放置しただけで、その水の中には、数十万個から数百万個の細菌が存在(1mlあたり換算にて1,000~100万個)。入浴直後と比較して、約1,000倍~5,000倍に菌が増殖してしまうのです。

そんなお風呂水の中に、レジオネラ菌など増殖することで害を及ぼす可能性がある細菌が混在していた場合、お風呂水の溜め置きをしたことで、菌が爆発的に増殖。レジオネラ症などを引き起こしてしまう可能性があるのです。レジオネラ症は、場合によっては、命の危険を及ぼしてしまうもの。健康リスクを考えた時に「お風呂水の溜め置き」は、行うべきではない要素として、認識されるようになったのです。

住宅を傷めるカビ増加の温床に!

「お風呂水の溜め置き」を避けるべき、もうひとつの理由が住宅(浴室・脱衣所)を傷める原因となることです。毎日、お風呂水を溜め置きしていると、黒かびなどの常在菌類も爆発的に増殖してしまいます。それらのカビは、浴室や脱衣所の建材(仕上げ材、下地材)に浸食。老朽化を促進させてしまうのです。住宅の老朽化を招かないためにも、「お風呂水の溜め置き」は避けるべき要素となります。

「水の確保」の最新常識

地震防災対策としての「水の確保」には、「飲料水の確保」と「生活用水の確保」の2要素が必要となります。そんな「水の確保」に関する最新情報をご紹介いたします。

ペットボトル水による「飲料水」と「生活用水」の確保

基本的に、備蓄用の「飲料水」として必要な量の目安は 一人一日3リットル×3日分=9リットルと言われています。これは、昔も今も大きな変化はありません。ただし、近年の大規模地震災害(2011年東北太平洋沖地震、2016年熊本地震など)を経験する中で、「9Lの水備蓄」では、事足りない状況が多く見られました。それは、「飲料水」以外に「生活用水(トイレ用など)」が現実的に必要となるからです。そういう意味で、「飲料水」に「生活用水」を加える形で12リットル/人:(2リットル 6本入りの一箱)を目安とするのが望ましいものと考えています。その場合、単純に何年も水を保存しておくのではなく、備蓄量と賞味期限を見比べながら随時使い足して行く循環備蓄方法ローリングストック法)が効果的です。

ウォーターサーバーの活用

近年、ウォーターサーバーを活用するご家庭も増えています。飲料水の備蓄をする上で、ウォーターサーバーは、とても効果的な手段となります。一般的なウォーターサーバーでは、「最大12リットル」の飲料水を蓄えておくことができます。ペットボトル水と上手く併用する形で飲料水のストックとして役立てることができます。

エコキュートの貯湯槽

近年、給湯器具として「エコキュート」を導入している住宅(戸建て住宅、マンション)が増えています。エコキュートには、「貯湯槽」が付いており、機種によって異なりますが、「195リットル~460リットル」もの水(湯)が貯えられています。地震災害時に、停電となったとしても、この貯湯槽内の水を利用することができるのです。ただし、貯湯槽内の水は“飲料水”としては使用不可。あくまでも“生活用水”としてのみ使うことができるということは、忘れないようにしていただければと思います。

水を運ぶ手段の確保

地震などの災害時に給水設備がストップした場合、自治体などによる「給水支援」が行われることとなります。指定された場所に赴き、飲料水を分けてもらうというもの。この時、必要不可欠なのがバケツなどの「水を運ぶ手段の確保」です。近年、都心部生活者にて、“バケツ”などを常備していない方が増えています。普段、自炊をしていない一人暮らしの方などを中心に、「水を運べる容器」を持っていないケースが少なくないのです。大き目のビニール袋などで代用することもできますが・・。実際には、水を運べたとしても、実用的なものとはなりません。飲料水の確保を念頭にするならポリタンク(蓋つき)、ウォータータンク、バケツなどは、最低限常備しておくように心がけておきたいものです。

まとめ

地震対策に限らず、「水の確保」は、様々な自然災害時に必要不可欠な対策(要素)となるものです。高層マンションなどでは、「停電」が生じただけで、給水がストップしてしまうというケースもあります。高層階では、水を運ぶことも容易ではありません。赤ちゃんなどがいるご家庭では、「軟水」の確保など、水の質なども考慮した備蓄が必要となることも考えられます。「飲料水と生活用水の備蓄」は、各家庭の生活環境に合わせて、多めに維持しておくことを意識していだたければと思います。(4/18(木) 16:15配信 たまひよONLINE)

命をつなぐ備蓄としてトイレの次に大切なのが水の確保です。どのような形で水を備蓄しておくことがベストな方法なのかを一度家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。