オフィスで被災した場合、近年は、「災害時一斉帰宅の抑制」(企業が従業員を3日間職場にとどめておくこと)が推奨されている。これは、生命のデッドラインとされる72時間の間は、道路などを救助・救出活動用にできるだけ空けておくためだ。
3日間会社で過ごすには最低限何を備えておけばいいのか、また、どんなタイミングで自宅に帰るのがベターか。ご自身も阪神・淡路大震災の被災経験がある、災害レスキューナースの辻直美さんにアドバイスをいただいた。
生き残るには信頼できる情報と自助努力が必須 1番大切なことは死なないこと、ケガをしないこと。
次に、会社にとどまるのが可能な状況かを確認しなければなりません。ケガをしていないか、デスクまわりの被災状況はどうかをチェック。
オフィスがあるエリアの被災状況、震源地、津波の有無などの情報を収集しましょう。リアルタイムで情報が入ってくるのは、Twitterです。ただ、SNSは誤情報が多いのも事実。信頼できるアカウントをフォローし、デマに惑わされないようにしておくことが大切です。 気象庁、国土交通省、内閣府防災、総務省消防庁、首相官邸(災害・危機管理情報)、ウェザーニュース、自治体のアカウントなどを押さえておき、必要な情報の選別に慣れておきましょう。
社内にとどまっても安全そうな場合は、オフィスに宿泊することになります。
「3日分の備えも会社がしてくれているよね」なんて思っているなら、正直甘い。充分な備蓄品を用意している企業はまだ少数。自分でいろいろ備えておいた方が確実です。「オフィスでそこまでしなくても」と思うかもしれません。それは恐らく被災の現場を知らないから。
災害は、実態を知れば知るほど怖くなります。私も未だに怖いです。だから「もっと勉強しよう」「しっかり備えよう」と対策を考える。災害を正しく恐れることは、生き延びる上で不可欠なことです。
会社の備品や100均で防災グッズは用意できる
「オフィスで災害に備える」とは、高価な防災セット一式を購入して、会社のロッカーに入れておくということではありません。100均の商品や社内にあるものでも充分備えることは可能です。会社での避難生活に必要な最低限のアイテムは、大半は会社や自宅にある次の10点になります。
普段からデスクにお菓子を置いている人はいませんか? そのお菓子は、災害時には貴重な食料になります。製菓メーカーのオフィス向け置き菓子サービス、ウォーターサーバーや飲み物の自動販売機があれば、会社の備蓄品として、皆で分け合うことが可能です。
ペットシーツ、新聞紙は、主にトイレのために用意しておきたいアイテム。もし地震で断水したら、一番の問題となるのは間違いなくトイレです。社員の人数に対して便器の数は少ない。だから、あっという間に汚れることは想像に難くありません。ペットシーツ、45Lのゴミ袋、新聞紙で災害用トイレを作り、少しでも清潔に保てるように心がけます。
布テープは常備している会社も多いはず。丈夫で粘着力が強いので、物が壊れた時の応急処置、連絡メモと、いろいろな使い道があります。ケガをした時には、水で洗った傷口をくっつけるようにして布テープでぐるぐる巻きにすれば止血もできます。この時、清潔なガーゼや手ぬぐい、ハンカチなどがあれば傷口に当てます。無ければ布テープだけで構いません。傷口をむき出しのままにしておく方が、感染する可能性があり危険です。
また、ティッシュペーパーは絶対に当てないでください。繊維が傷口に残るため、治療前に歯ブラシで洗って取り除くことになります。
パウダーや泡で傷口を覆うタイプの医薬品も同様です。受診しないならOK。診察・治療するのなら、布テープだけ貼ってある方が、ベリッと剥がすだけなので治療しやすいです(笑)。
また、女性は生理用品を忘れずに備えておきましょう。
好きな香りやお気に入りのマスコット人形、家族の写真のように、精神的なお守りになるものを携帯することもおすすめです。被災すると、本当に気持ちが沈みます。怖くて、震えが止まらなくなる。そんな時、こうしたものがあると気持ちが落ち着き、自分らしさを取り戻すきっかけになります。
気力・体力があるうちに会社を出て自宅を目指す
会社に救援物資が来ることはまずありません。交通機関が復旧しなくても、備蓄品が底を突く前に帰宅することを考えなければなりません。時間が経つほど体力もメンタルも削られます。徒歩で移動できる体力があるうちに会社を出ましょう。その時に携帯したい防災グッズは次の通りです。
ガレキが散乱した道を少しでも安全に歩けるように、会社には常にスニーカーを置いておきましょう。
徒歩で帰宅するあなたは、どの道を通ればいいのか、体力的に1日何キロ程度なら歩けるのか、知っていますか? 会社から自宅までの徒歩ルートを一度は歩いておくようにしましょう。一気に踏破する必要はありません。 たとえば、今日はまず2駅歩く。次の機会には2駅目まで電車で移動し、そこから2駅歩くというふうにすればOK。実際に歩くと、地図からだけではわからない階段や土地の高低差、周囲の危険物などの情報を得ることもでき、万一の時にあわてずに済みます。
自宅が遠い人は、途中で災害時帰宅支援ステーションや避難所を利用しながら帰るルートをあらかじめ考えておきます。いずれの場所も、各自治体のサイトや防災アプリなどで調べられるはず。新型コロナウイルス感染予防のために、今は収容人数が1/3程度に抑えられています。「ここが満員だったら、あそこ」というように、複数候補を見つけておいた方が安全です。
また、「帰ると決めたら、どんなことがあっても帰る」というのはNG!! 2016年の熊本地震のように、本震だと思っていたのが前震で、後から本震が来たり、震度5以上の余震が何度も続いたりするケースもあります。
このまま進んでいいのか迷ったら、災害時帰宅支援ステーションなどで情報を収集。状況によっては、引き返す勇気も必要です。(2020. 11.17(火) 12:11配信 マイナビニュース)
災害が発生した場合、会社に支援が来ることはありません。救助支援も順番的には後の方です。会社に留まるとは、一度に多くのことが帰宅のために移動し救援・救助活動に支障が出るからです。実際に東日本大震災の時、都内は大変なことになりました。いづれは帰宅行動をすることになります。公共交通機関が復旧していればいないことを前提に自分自身の帰宅方法をシュミレーションしておきましょう。