九州を襲った記録的な豪雨は、7月14日現在、死者73人、浸水1万棟以上、総額158億円という甚大な被害(農林水産物)をもたらした。中でも、72時間の降水量が最も多かったのは大分県日田市で、観測史上最大となる862ミリを記録した。もし、これだけの雨が首都圏に降り注いだらどうなるのだろうか。
気象庁によると、7月3日から8日にかけて観測された72時間雨量で、大分県9地点、福岡、熊本県の各5地点、鹿児島県4地点、長崎、佐賀県の各2地点の計27地点で観測史上最大を更新した。
862ミリを記録した日田市は、7日から8日にかけて筑後川が氾濫し、市街地が冠水した。ちなみに、これまでの最高記録は、2017年の九州北部豪雨の際、福岡県朝倉市で観測された616ミリだった。
今回の豪雨では、浸水高も尋常ではなかった。熊本県の球磨川流域にある人吉市街地の浸水は最大で4・3メートルに達した。
「過去40年で最も降水量が多かったのは、2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)です。全体の降雨量は19万5520ミリでした。それに対し、今回の豪雨は、3日から13日までの10日間でおよそ20万ミリ降っています。西日本豪雨を上回る勢いですね」と解説するのは、気象予報士の森田正光氏。
豪雨の原因は、積乱雲が帯状に集まって局地的豪雨を降らせる「線状降水帯」が発生したためだ。
「湿った空気が上昇すると積乱雲が発生します。今回の豪雨は、東シナ海から来た湿った空気と九州南部から来た湿った空気が北九州や熊本上空でぶつかって線状降水帯をつくりました。線状降水帯自体は珍しい気象現象ではありませんが、降雨が長期化したことは特異ですね。
梅雨前線が長く停滞したのは、インド洋の海水温が上昇したためです。海水温の上昇で上昇気流が発達し、偏西風が蛇行。それによって黄海付近の気圧が低くなりました。大気は気圧が高いほうから低いほうへ流れるため、温かく湿った空気が南から梅雨前線に大量に流れ込んで、梅雨前線を強化、停滞させたのです」(同)
首都圏で危ないのは江東5区
今回のような線状降水帯による豪雨は、首都圏でも起こりうるという。
「気温の高い地域は海水温も高くなり、積乱雲が発生しやすくなるので雨が多くなります。気温の高い西日本に豪雨が多いのはこのためです。もっとも2015年には鬼怒川が氾濫した関東・東北豪雨があり、600ミリの降雨量を記録しています。
温暖化の影響で、今後は東日本も豪雨が起こりますよ」(同)
首都圏で、800ミリ(72時間)を超える大雨が降ったらどうなるのか。
内閣府は2008年、「首都圏における大規模水害の被害想定結果の概要」を公表している。
その中にある「荒川右岸低地氾濫の被害想定」を見ると、荒川流域の平均雨量が約550ミリ(72時間)に達した場合、北区志茂地先で荒川の堤防が決壊。
浸水範囲は板橋区、北区、荒川区、台東区、墨田区に及び、その面積は約110キロ平米。浸水区域内の人口は約120万人、死者は約2000人、最大約86万の人が孤立すると想定している。
「荒川にはスーパー堤防があり、埼玉には首都圏外郭放水路もあります。九州とは違って治水整備されています。九州と同じような800ミリを超える豪雨が首都圏であった場合、今回と同じような被害を受けるかどうかはわかりません」とは、江東区の危機管理室の担当者。
「ただ、首都圏で豪雨が発生した場合、最も被害を受けるのは、満潮位以下のゼロメートル地帯が多い江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)です。そこで江東5区では、大規模水害による犠牲者ゼロの実現に向け、2016年に『江東5区広域避難推進協議会』を設置しました。
18年には『江東5区大規模水害ハザードマップ』を発表しています」
このハザードマップによると、荒川で72時間の総雨量が632ミリ、江戸川で491ミリに達すると、江東5区のほとんどが浸水するという。江東5区の人口は約260万人だが、床上浸水となる居住人口は250万人に達すると想定。さらに、浸水の高さは最大で約10メートルと、人吉市の4・3メートルの倍以上。
堤防沿いの家屋は氾濫流によって倒壊、流出のおそれがあり、人が集まる駅や橋梁では、群衆雪崩や将棋倒しなどの大事故が発生する可能性もあるという。
「昨年10月の台風19号の時、浸水被害が心配されましたが、治水が整っていたので、江東5区は難を逃れました。ただ、江東5区だけでなく荒川や江戸川の上流、つまり埼玉で豪雨があれば、川が氾濫することも想定されます。
線状降水帯は九州や東海だけとは限りませんから、最悪の事態を考えながら対策を講じるつもりです」(同)
先の森田氏もこう言う。「今回と同じような豪雨はここ10年で増えています。18年の西日本豪雨、17年の九州北部豪雨、15年の関東東北豪雨、12年の九州北部豪雨などで、これは温暖化の影響によるものです。
海水温が1度上がると、大気中の水蒸気の量が平均して10%増えるのです。東京では10日間で1000ミリを超す豪雨はまだありませんが、今回のような豪雨がいつ来てもおかしくありません。首都圏では海抜ゼロメートルの低地帯が危ないでしょうね。
自治体は洪水のハザードマップを作成していますから、是非、ご覧いただきたいと思います」(2020.7.16(木) 6:00配信 デイリー新潮)
ここ数年の雨はこれまでの気象データをことごとく上回り甚大な被害が発生しています。過去の災害では被害がなかったという事は今の気象状況では全く安心材料にはなりません。川の近く、崖の近く、山の近くにお住いの方はできる限りの対策を施し、何よりも大切なことは早期避難をするように心がけてください。