2020年東京五輪でセーリング競技が開かれる神奈川県藤沢市江の島の「湘南港」は大地震に伴う津波発生時、避難が困難なエリアであることが判明した。

毎日新聞が情報公開請求で入手したシミュレーションデータによると、競技中に想定地震が発生した場合、約90秒後に津波が選手やスタッフの所在する場所に到達し、約6~8分後には観客の立ち入り想定区域も浸水する。20年東京五輪・パラリンピック組織委員会は「避難は可能」とするが、専門家は困難さを指摘し「観客らにリスクを周知すべきだ」と指摘する。

データは、神奈川県が通常の防災対策として民間企業に委嘱して作成。震源などが異なる九つの地震に関するデータがあり、毎日新聞は組織委も発生確率が高いとして影響を想定する「大正型関東地震」(マグニチュード8.2)に関する文書を県から入手した。内閣府の採用する津波被害の基準は(1)水深(浸水深)30センチから避難が困難になって死者が出始め(2)1メートルで死亡率100%――とする。入手したデータもこの基準を採用しており、湘南港を10メートル四方に区域分けし、地形や標高などを勘案して、各エリアが地震発生から何秒後に(1)や(2)になるかが記載されている。

データによると、気象庁が地震の震度を発表する目安とされる約90秒後、選手やスタッフが所在するエリア=図のA部分=が(1)になり、地点によっては(2)になる。約6分後に観客の立ち入る可能性のある防潮堤付近=図のB部分=も(1)になり、約8分経過すると大半が(2)になる。五輪出場経験もあるセーリングの元選手によると、出・退帆の際、選手とスタッフはAに所在する必要がある。津波避難など危機管理に詳しい愛知県立大の清水宣明教授は「救命具を着けていても選手は漂流物でけがをする。着用していないスタッフは溺死する危険性がある」と指摘する。

組織委は当初、港東側=図のC部分=に観客席を設置し5000人を招く予定だったが、津波対策として観客数を3300人に削減した。選手・スタッフ2100人、報道関係者300人を合わせると計5700人が臨場する予定で、広報担当者は取材に対し「全員が退避可能」と繰り返す。避難者は五つの一時避難施設と高台の計6カ所の避難場所に収容する計画だが、具体的な避難ルートなどは「お答えしない」とした。東京五輪のセーリング競技は7月26日~8月5日、男女10種目が実施される。

◇「組織委はリスクを周知する義務ある」

国際津波防災学会副代表で地震と津波に詳しい東京工業大の丸山茂徳特命教授の話 大正型関東地震の想定震源域は広く、震源の位置によっては、神奈川県のシミュレーションより大きな津波が、もっと早く到達する可能性さえある。浸水スピードも踏まえると、全員を無事に避難させる方法はなく、津波リスクの低い別の場所を会場に選定すべきだった。それでも湘南港で大会を開くなら、組織委は津波の怖さをあまり知らない海外の観客にも分かるように「発生確率は低いが観戦は自己責任」とリスクを周知する義務がある。

◇神奈川県のシミュレーション

東日本大震災を受けて設置した専門家らの会議と国の知見を基に2015年3月に作成され、これを踏まえ、県内の自治体が避難計画を策定している。「大正型関東地震」は想定9地震のうちの一つで、1923年の関東大震災の再来型。江の島では発生7分で最大6.4メートルの高さの津波を想定する。震源は相模トラフ沿いでマグニチュードは8.2、30年以内の発生確率はほぼ0~6%。(2019.4.9(火) 5:00配信 毎日新聞)

オリンピックは世界各国からたくさんの人が集まります。観光立国を政府は公言しインバウンドに力を入れているにもかかわらず、訪日外国人に対する防災対策は遅れている現状が大阪北部地震においても露呈しました。約6000人を予想津波到達時間90秒の中で「全員が退避可能」と発表している広報担当者にその根拠を公開する責任があると思います。