首都直下地震、南海トラフ地震など、震度7クラスの地震がいつ起きてもおかしくない日本。「いざとなったら、避難所に行けば何とかなる」なんて考えている人もいるかもしれない。しかし、避難所への道が通れなくなったり、避難所に辿り着けてもキャパオーバーで入れなかったりする可能性も十分ある。万一の時に自宅避難ができるように、地震に強い部屋づくりのコツを災害レスキューナースとして国内外で活躍する辻直美さんに教えてもらった。

防災対策は危険物・割れ物が多いキッチンから 地震に強い部屋づくりのポイントは、迅速に復興できるように、ケガをしないことと、片付けをしやすいことです。いろいろなものが飛び出し、壊れ、グチャグチャになった部屋は、それだけで気持ちが萎えるもの。なかでも厄介なのがキッチン。調味料でベタベタになったり、食品が腐ったりする可能性が大です。1人暮らしの人はそれを自分だけで片付けなければなりません。まずはキッチンから防災仕様にしましょう。

●食器・カトラリー・調理器具 キッチンから防災仕様にするのは、包丁、フライパン、食器など、危険物や割れ物が多いからです。これらをコンロや水切りに出したままにしたり、壁に掛ける「見せる収納」にしたりしている人も少なくないと思います。

正直「死にたいの?」と思ってしまいます。地震では、外に出ているたいていのものは飛んできます。「大ケガするのは刃物くらいでは?」なんて思っているなら大間違い。 過去の震災では、菜箸が刺さって亡くなった方もいらっしゃいました。どんなものでも凶器になる可能性があることを肝に銘じて。

使い終わったら、すぐに扉付きの棚や引き出しに片付ける習慣を付けましょう。さらに「開き戸ロック」や「引き出しロック」を付けて、揺れても中のものが飛び出さないようにします。

「片付けたくても収納場所が足りない」という人は、フォーク、ナイフや菜箸などは蓋つきのケース、フライパン、鍋、皿はファイルボックスに横向きに立てて入れてみてください。

シンクまわりの棚などに、詰めて収納しやすくなります。この時、重いものや割れ物はできるだけ低い場所に置くようにします。ケースの底面に「滑り止めシート」を貼れば、揺れても動かなくなり安心。内側にも貼ると、更に心強いです。

地震の時、家電は「飛ぶ凶器」と化す キッチンには家電も多く、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器あたりはほとんどの人が持っていると思います。冷蔵庫や電子レンジは重量があるので1人暮らしでは大変かもしれませんが、友人に手伝ってもらってでも必ず対策をしてください。

●冷蔵庫 大型家電である冷蔵庫が倒れた場合、ケガをする危険があるのはもちろん、通路を塞いで身動きが取れなくなる可能性があります。まずは下に家具転倒防止板を敷き、前方には倒れてこないようにしておきます。

冷蔵庫の揺れ方には特徴があり、冷蔵庫の中のものが動くことで、冷蔵庫本体の揺れも大きくなります。そのため、庫内のものをできるだけ動かないようにすることも転倒防止のひとつの鍵。

たとえば、調味料、瓶詰、缶飲料のような転がりやすいものは滑り止めシートを貼ったケースにまとめる、ケース同士はできるだけきっちり詰めて置く。庫内の下に重いもの、上に軽いものを入れて、重心を低くすることも有効です。地震で中のものが飛び出さないように、「冷蔵庫ロック」も掛けるようにしてください。

●電子レンジ・炊飯器 我が家では、電子レンジ用の耐火の耐震ジェルを足に貼って固定しています。

他にも電子レンジ用のストッパー、ストラップ式の粘着マットなどもありますから、自分の部屋の設置場所に合うものを選んでください。 冷蔵庫の上に電子レンジ、その上にオーブントースターと、積み重ねて置いている人もいると思います。重ね置き自体は構いませんが、必ず電子レンジ、オーブントースターの足に耐震ジェルを貼る等して、地震で崩れないようにしてください。

炊飯器のように持ち運ぶこともある家電は、設置場所の下に滑り止めシートを敷くことで対応します。ただし、万一のリスクを考えて、胸より下に置くようにします。

①家具や家電が前方に倒れてくるのを防ぐ転倒防止板(100均でOK)。

②電子レンジやオーブントースターの防災グッズには、足の下に貼る耐震ジェル、両サイドから固定するストッパー等がある。

③持ち運ぶこともある家電は、下に滑り止めシートを敷いて対応(辻さん自宅)。

命をつなぐ水・食料は最低10日分ストック 自宅避難に欠かせないのが水や食料です。一般的に3日分の備蓄が推奨されています。ただ、ライフラインが断絶した場合、3日で復旧する見込みは薄いです。1人暮らしだと近所づきあいも少ないことでしょう。顔を知ってもらわないと、周囲との助け合いもあまり期待できません。

最低でも10日分は用意しておいた方が安心です。「10日分も置く場所が無い」という人もいると思いますが、キッチンだけでなくベッドの下、玄関と分散させると、案外なんとかなるものです。

地震では、あちらの部屋は潰れたが、こちらの部屋は無事だったというケースもありますので、そういう意味でも分けてストックするのがおすすめです。

●食料品 わざわざ防災食を10日分揃える必要はなく、普段からストックしている乾麺やレトルト食品などを多めに用意すれば大丈夫です。冷蔵庫の中の食品、お菓子も10日分の備蓄にカウントして構いません。消費したら補充する「ローリングストック」で備えましょう。 私自身の阪神・淡路大震災の時の経験から言えば、乾パンのような防災食は気持ちが萎えました。普段から食べ慣れたものに近いメニューの方が食欲も湧き、精神的に落ち着きます。

●水 成人が1日に必要な水は1人当たり3L(内2Lが飲用)。

そのため、少なくとも30Lは備えておかないと厳しいです。飲用の20Lの中には、水だけでなくお茶や炭酸水、清涼飲料水など、普段からよく飲んでいるものを加えてもOK。緑茶煮のように調理にも使える飲み物を選んでおくと、用途が広がり便利です。

コーヒーやお酒は、飲むと利尿作用で水分不足になります。「飲用」のストックには適しません。ただ、料理に使えますし、避難生活では嗜好品の入手は難しくなりますから、ある程度は柔軟に考えていいと思います。

①辻さんの自宅の冷凍庫。避難生活では野菜が不足しがちなので、冷凍食品で備えておきたい。停電になった場合は、溶けてきたものから食べればOK。

②辻さんの自宅の食品ストック例。パスタソースは冷凍庫の野菜や肉と混ぜて湯煎して食べてもおいしい。乾麺やカップ麺は、時間はかかるが、水でも作れる。ネットの情報などを参考に、事前に試した上で好みの商品をストックするとベター。(2020.10.7(水) 12:11配信 マイナビニュース)

キッチン周りは地震発生時は危険の宝庫です。特に冷蔵庫は危険です。きちんと家具転対策を施しましょう。