日本には毎年のように台風で被害が出ます。大きな地震も珍しくありません。しかし、日本で暮らす全ての人が、こうした災害に身近な環境で育ってきたわけでも、学校で防災教育を受けてきたわけでもありません。地震や台風がない国からやってきた外国人も、日本に多く住んでいます。この冬、日本に住むベトナム人を対象に「防災リーダー」を育成するセミナーが始まりました。

セミナーを開いたのは、JICA関西(国際協力機構関西センター・兵庫県神戸市)です。 背景には、日本に住むベトナム人が全国各地で急増していることや、JICA関西が阪神淡路大震災後から続けてきた国内外での防災教育の活動がありました。 各地のベトナム人学生団体やベトナム人協会などの代表者ら約20人が参加しました。 1年間かけて、オンラインとオフラインで、日本での災害や防災・減災、災害が起きた時の対処などについて学びます。 その上で、各コミュニティでの「防災リーダー」になり、それぞれの団体のメンバーに、ベトナム語で防災・減災の情報を届けていくようにするのが、その狙いです。

阪神淡路大震災から25年。つなぐ防災の意識

セミナーを開くことにした背景を、JICA関西・市民参加協力課の橋本秀憲さんはBuzzFeed Newsにこう話します。 「JICA関西では、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、発展途上国における防災というものをひとつの軸にして活動してきました。兵庫県や神戸市、市民団体とも連携し、発展途上国に防災を広げていくという活動です」 「日本国内で労働者など外国人が急増する中で、その経験を活かして、日本に住む外国人の防災に関しても『何かできるのでは』と始まった企画です」 ベトナムは地震が少ないため、地震がどんなもので、どう対処すべきかということなどを知らない人も多いといいます。 各団体の代表者を「防災リーダー」として育成する仕組みのため、「各地にしっかりとした(同胞)組織がある国を」と考えたところ、まずベトナムを選んだということです。

台風でベトナム人技能実習生が犠牲に。高まる災害への危機感

JICA関西で12月12日、防災リーダーになる日本在住のベトナム人が対面とオンラインで集い、第一回のセミナーが開かれました。 ベトナム人が働く企業の関係者、技能実習生の監理団体や受け入れ企業も見学しました。 2020年9月に発生した台風10号では、宮崎県椎葉村でベトナム人技能実習生2人が土砂崩れに巻き込まれて死亡しました。 日本で暮らすベトナム人に被害が出ていることなどから、ベトナム人コミュニティの中でも、災害への備えに対する意識が高まっています。

「危険性知り、備える」ベトナム語での防災マニュアルも

神戸市消防局の担当者はセミナーで、阪神淡路大震災の際に「外国人を含む『災害弱者』といわれる人たちなどが、(言葉の壁などで)災害の情報を受け取れずにいました」と話しました。 担当者はベトナム人ができる防災対策として、「住む家や地域にある(災害の)危険性を知る」こと、そして「地域の防災訓練に参加する」ことを挙げました。 防災訓練では、災害時の対応を学ぶだけでなく、地域の人とつながりを持ち、いざというときに備えることもできます。 居住地区の危険性を知るには、ハザードマップの他、各自治体や消防などが作成している多言語の防災マニュアルなどを活用することもできます。 神戸市消防局もベトナム語で翻訳した火災に関する防災マニュアルをウェブ上で公開しています。 各地の自治体がベトナム語を含む多言語で防災情報を発信していますが、各ウェブサイトに掲載されているだけで、外国人がその情報にリーチできず、あまりうまく活用されていないなどの現状もあります。

「技能実習生や子ども」「来日間もない人、守りたい」

参加者同士でのディスカッションでは、「どんな災害から誰を助けたいか」「どんな防災情報をどう届けるべきか」といった点が話し合われました。 話し合いでは、「ベトナム人の中でも、まだ日本語を理解したり話したりできない来日間もない人」「技能実習生や子どもなど」を災害から守りたい。それに対する「防災教育が必要」との意見があがりました。 今回は、参加者に技能実習生がいないため、技能実習生を受け入れている企業などにリーチし、ベトナム語での防災情報を共有するべきとの意見も出ました。 参加者の中には、阪神淡路大震災を経験したベトナム人もいれば、災害をあまり経験したことのない若者も。それぞれの視点からの意見を交換しました。 参加者が防災リーダーになった暁には、ベトナム語で動画を作成してFacebookに投稿するなどして情報を拡散します。 また、地域の防災訓練についてリーダーが調べて一緒に参加したり、コロナ収束後にはイベント型の防災訓練を主催したりという案もでました。

「言葉が分からない人は避難できなかった」

セミナーの中では、「言語の壁で災害情報が伝わらない危険性」を、実際にあった過去のケースからリアルに伝える話も共有されました。 阪神淡路大震災を機に始まった多文化・多言語コミュニティ放送局「エムエムわぃわぃ」の日比野純一さんは、震災当時を振り返り、こう語りました。 「神戸市の東灘区に、大阪ガスの大きなガスタンクがあり、そのタンクにひびが入ったという情報が流れました。ひびが入るとガスタンクが爆発するかもしれないので、ハンドマイクなどで避難を呼びかけました」 「日本語が分かる人は避難したけど、言葉が分からないラテンアメリカの人たちは半分倒壊した家の中でじっとしていたんです。東灘区には、ラテンアメリカから来たスペイン語が母語の人たちがたくさん住んでいて、来日してまだ半年で日本語がわからない人も多くいたんです」

他にも、言葉の壁で支援が受けられない外国人もいたり、または自分の困っていることを伝えることも難しいという問題も浮き彫りになったりしました。 「その人たちがぶつかった壁は、地震が起こってぶつかったわけではない。地震の前から、ずっとぶつかっていた壁なんだとわかりました」(日比野さん) 外国人に必要な情報を伝えるために、前身となる「FMヨボセヨ(韓国・朝鮮語、日本語)」が震災発生から約2週間後に、そして「FMユーメン」が2カ月後にベトナム語、スペイン語、英語、タガログ語、日本語で震災情報放送を始めました。 その年の夏からは2つが合体し「エフエムわぃわぃ」となって多言語放送をし、それは今でも続いています。 日比野さんはセミナー参加者に「今日いるベトナム人の人たちが、地域の人たちと橋をかけていくことができるかもしれない」とし、防災リーダーの活動の重要性を強調しました。(2020.12.19(土) 12:33配信 Buzz Feed JAPAN)

素晴らしい活動だと思います。日本に住む外国人への防災教育と発展途上国の防災教育はとても大切です。地震をはじめとした災害は各国で発生し多くの尊い命が失われています。一人でも多くの命を守るためにもこの活動が大きく広がることを期待しています。