江戸川区のハザードマップの“文言”に反響

東京・江戸川区の地図に「ここにいてはダメです」と書かれた表紙の冊子。実はこれ、江戸川区が11年ぶりに改訂した「水害ハザードマップ」なのだ。5月20日から区内全世帯に配布するとともにインターネットで公開されると、SNSなどでその“過激な言葉”に大きな反響があった。

まずは、そのハザードマップの内容を見てみると、江戸川区には関東地方で降った雨の大半が集中するという。江戸川区は荒川や江戸川など大河川の最下流に位置していて、陸の7割が満ち潮の海面よりも低い「ゼロメートル地帯」になっている。このため、巨大台風や大雨が降って河川が氾濫したり、高潮が発生したり、排水が間に合わなくなると「区内のほとんどが水没」するとハザードマップに書かれている。さらに被害は江戸川区にとどまらず、墨田区、江東区、足立区、葛飾区を含む江東5区で発生し、250万人が被災すると想定している。

そう言われても、「洪水が起きてもウチはマンションだから大丈夫」とか「〇階だから平気でしょ」と思っている人もいるだろうが、江戸川区で洪水が発生すると長いところでは2週間以上浸水が継続する可能性があるとしている。そして、江東5区の250万人が被災すると、救助も混み合い、いつ自分の番になるか分からず、もしそんな状況に陥れば、電気・ガス・水道・トイレが使えないところで2週間生活なければならないと注意を促している。さらに、ハザードマップには、ズバリ「あなたの住まいや区内に居続けることはできません」と書かれている。

こうした内容もさることながら、やはりTwitterユーザーに注目されたのは「ここにいてはダメです」という、お役所らしからぬ“過激な言葉”で、賛否両論が飛び出している。

【否定的な意見】
・江戸川区民ですがこれはひどい
・命が惜しければ余所へという宣言なのか
・まさか自分が住んでる区から「どっか行け」って言われるとは思わなくて笑っちゃった
・江戸川区内には居場所はないのんか?

【肯定的な意見】
・これぐらい言わないとみんな意識しないでしょ
・変な嘘や誤魔化しをせずに正確な説明をするのはいい
・ここに居を構えるなって言ってるわけじゃないですよ。避難情報が出たら区外に出てねってことですよ。

なぜ江戸川区はこんな表現を使ったのだろうか?そして、区民からはどんな反響があったのか?区の担当者に聞いてみた。

「“思い”をこのフレーズに込めています」

――過激な言葉を使ったのはなぜ?

まず、このハザードマップを見て、正しい情報を理解して、広域避難について考え、そして自らの命を守る行動に結び付けていただきたい、という思いをこのフレーズに込めています。そして、表紙だけでなく中を見て、江戸川区の地勢(地形の起伏)や、大水害が起こったらどうなるのか知って、広域避難について考えていただきたい。

――そもそも、なんでハザードマップを改訂したの?

平成27年に水防法が改正されたことからハザードマップを改訂しました。前回2008年に作った江戸川区のハザードマップとの大きな違いは3つあります。まず1つ目は「計画規模」から「最大規模」に変わったということです。それまでは計画規模(洪水防御に関する計画の基本となる降雨)の洪水を元にしていましたが、想定し得る最大規模の洪水に変更しました。2つ目は、高潮の浸水想定区域を取り入れました。あともう一つの大きな変更点は、浸水の継続時間を追加したことです。また冊子には、荒川の洪水と江戸川の洪水と高潮の洪水を合わせ、被害の最大値を表した大きな地図が付いています。

「垂直避難」でやり過ごすより、遠くへ避難してほしい

――「広域避難」ではなく、高い所に登って洪水をやり過ごす「垂直避難」はダメなのか?

「垂直避難」でやり過ごすという考え方は確かにありますが、ハザードマップにも書いてある通り、浸水が2週間続く可能性があります。水害が起きるのは真夏の暑い時期になる可能性が高く、そんな中で電気・ガス・水道・トイレも使えない、過酷な生活を続けるのはとても大変です。厳しい生活によって病気やケガをしたり、二次被害が起こる可能性もありますので、浸水のない安全なところに避難していただきたいです。

災害が予想される3日前になると、江東5区で共同検討を始めます。2日前には自主的な広域避難を呼びかけます。1日前には広域避難勧告を出します。そして9時間前になると、逆に広域避難をするのは危ないので、命を守る行動として緊急的に「垂直避難」をしてくださいと呼びかけます。こういうことにならないよう早め早めの避難をお願いしています。

――江戸川区が区外に確保している避難所はある?

現状においては公的な避難場所の確保はできていない状況です。

――今回のハザードマップについて、どんな反響がある?

様々な意見がございます。「防災について自分でも考えなければいけない」ととらえていただいているご意見もありますし、先ほどの質問のような「区外の避難場所はなぜないのか」というご意見もいただいております。避難を呼びかける“過激な言葉”に、SNS上では否定的な意見も見られたが、今のところ区にはそういった意見は寄せられていないという。

ちなみに、ハザードマップには、非常持ち出し袋に入れるものなどの情報や、連絡先・避難先など書いて使うページなど、災害時に役立つ内容が満載となっていて、江戸川区の全戸に配布しているほか、区役所や各事務所で配布しているそうだ。災害時などに、自分は大丈夫と思ってしまう「正常性バイアス」が取りあげられることがあるが、こうしたハザードマップなどで、自分が住む地域の防災に対する意識や理解を深めておき、最悪のケースを想定して置くことは大事だ。(2019.6.6(木) 20:01配信 FNNPRIME)

この記事を読んで東日本大震災のときの仙台市危機管理室減災推進課長さんの話を思い出しました。「自治体がもっている設備にもマンパワーにも限界があるので、市民の方々のお力をお借りしなければ災害・応急対策は進んでいかない」という言葉です。日本は世界的に見ても公助を当てにする民族です。自分の命は自分で守るという考え方がないといってもいいくらいです。特に年齢が高くなるにつれその傾向は顕著に現れます。そういう人に限って発災時には要救助者になり誰かが危険をおかして救助しなければならなくなるのです。現実をきちんと見るということが重要です。そして見たことを分析してどのように対策を講じればいいのかを考え、実施することがもっと重要なのです。