想定外の大災害とキャッシュレス

「災害列島」──。近年頻発する大地震や巨大台風、異常気象など、大規模な自然災害が日本に降りかかる様子のことだ。少し振り返っただけでも、関西国際空港を孤立させた2018年夏の「台風21号」、北海道全島を停電に陥れた18年9月の最大震度7「北海道胆振東部地震」、2019年には千葉県などを中心に首都圏を相次いで襲った「台風15号」と「台風19号」の2つの巨大台風が記憶に新しい。どれも観測史上最大級というのが特徴で、設備の耐久力を上回るほどの威力が被災地のインフラを破壊。結果として、数日〜数週間単位で復旧に時間を要するほどの爪あとを残していく。

こうした中で話題になったものの一つが「キャッシュレス」だ。政府は現状で2割強というキャッシュレス決済の普及率を、25年までに40%程度まで引き上げることを目標にしている。しかし、インフラ復旧がままならない中、店のレジやATMがダウンし、残った商品を現金で販売する小売店の姿がメディア各社で報じられれば、「やはり現金が最強だ。キャッシュレスなど災害時には無力だ」という声が出てくるのも当然だろう。

もちろん、店舗・ビルのシステムや流通だけでなく、電気や水道、下水、ガスのインフラもまひしている状況でキャッシュレスの話だけを持ち出すのもナンセンスだが、限られた状況で「最後に頼りになるのは現金」というのも正論だ。

北海道の停電のケースが顕著だったが、周辺エリアが全て停電している場合、キャッシュレスは完全に無力だ。大規模停電、止まるレジ それでも支払う方法は!!

当時はセブンイレブンで店舗内の非常用電源が稼働しATMなどが利用できたり、北海道では最大手のコンビニ・セイコーマートでは電源車を接続して店舗運営を継続したりと、予備電源の有無が運命の分かれ目となった。実際にコンビニを含む流通各社に個別に質問を繰り返していたところ、このような非常用電源装置が備え付けられているケースは“まれ”だという。

「停電後はレジなどが使えなくなるため、簡易端末をレジ代わりに使用している。現状は900ワットの発電機を店舗の事務所に導入していますが、投光器や携帯の充電器が使用できる程度の小さな容量であって、POSレジまではカバーできていません」(ローソン)というように、基本的には停電した時点でキャッシュレス決済は利用できなくなる。

ローソンでは停電時の店舗営業継続を支援する目的で、今後は容量の大きい発電機の導入を検討しているという。しかし、災害による広域停電まで想定できるかというとやはり難しい部分はある。

○1つの手段だけに頼ると大変なことに

これは昨今の大災害を教訓として分かったことだが、“キャッシュレス原理主義”的な考えでは、突発的な事態には対応が難しい。筆者は普段の買い物もできる限りクレジットカードと電子マネーで済ませているが、これでは前述のような災害時にはおそらく対処できない。やはり現金やコード決済のような代替手段を用意しておき、その時々で使い分けられるようにしておくのがいいだろう。海外旅行で1枚しかないクレジットカードが何らかの理由で突然使えなくなった場合、代替の決済手段がなく身動きが取れなくなる、といった事態を想像してもらうのもいいかもしれない。

現金最強説は本当か

「やはり現金(キャッシュ)がいざというときには一番頼りになるのでは?」という話が出てくるわけだが、これはある意味で正しい。キャッシュレス先進国といわれる北欧でさえ、現金はなくなっているかと思いきや、街中の商店では必ずといっていいほど見かける。近年急速にキャッシュレス決済環境が普及しつつある中国においても、出番が減っただけで相変わらず現金は有効だ。おそらく、日本でキャッシュレス決済が相当のレベルまで普及したとしても、現金が決済手段としてマイナーになることは当面ないだろうと筆者は予測している。

○分散しないことによるリスク

現金は確かに万能の支払い手段であり、特に日本においてはオンライン通販でさえ現金で支払う手段がある。しかし現金を手元に置きすぎるのは危険だ。例えば空き巣や強盗が家に入れば全て奪われる可能性があるし、多額の現金を持ち歩けば紛失リスクや強盗に襲われる可能性はやはり無視できない。キャッシュレス決済の分散化と同じで、現金もなるべく分散管理し、至急必要ではない分については銀行に預けるのが正しい。昨今、長く続く低金利時代により銀行の収益源が限られ、口座維持手数料を請求するという話が持ち上がり話題になっているが、銀行が提供するサービスや安全性を考えれば、それだけの価値はあると筆者は考えている。何事も偏り過ぎはよくないというわけだ。

○海外は大災害にどう対処? ハリケーン「サンディ」の事例で分かったこと

「キャッシュレスと災害」というと、海外の事情も気になるところだ。そう考えて筆者は過去に、世界中のニュースアーカイブをたどり「キャッシュレス先進国ではどう対処していたのか」について調べていたのだが、思ったほど記録に残っていなくて驚いたことがあった。理由はいくつかあるが、「キャッシュレス決済の普及自体がここ10年ほどのことで、参考になるケースがほとんどない」「仮に障害が発生しても全国規模ではなく局所的で、ニュースとして話題にならない」「英ロンドンで昼間にクレジットカードの大規模障害があったが、みんな適当にティータイムを楽しんでいる間に復旧した」といった具合だ。

ただ、筆者が唯一参考になると思ったのは、2012年10月に米国東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」のケースだ。このときは米ニューヨーク市が広範囲にわたって浸水し、地下鉄や自動車のトンネルの多くが水没したほか、ニューヨーク証券取引所も2日間閉鎖を余儀なくされ、電力を含むインフラ復旧まで数週間を要した。世界最大の都市での大災害ということもあり、さまざまな情報が報じられたため、これらがアーカイブとして大量に残っている。このため、月日が過ぎた現在でも「都市インフラは自然災害にどう対処すべきか」というテーマでの研究が可能となっている。当時の米国は「キャッシュレス先進国」といえるほど決済インフラは発展していなかったが、「災害時の決済では現金が重要」というのは見て取ることができた。

○サンディ通過後に現れた「大量のATM」

サンディ通過後にニューヨーク市内各所でまず見られたのは、当面の生活費と移動手段確保のためにATMとガソリンスタンドに長蛇の列が発生したことだ。人が殺到することでATM内の現金やスタンドのガスもすぐに底を突くので、この供給体制が問題になった。ここで何が行われたかといえば、銀行による大量の臨時ATMの設置だ。これにより、行列をさばくとともに、1台当たりにストックしてある現金が足りなくなる問題に対処した。移動ATMは日本でもイベント会場などでよく見られるが、いろいろ聴き取りを行っていると、そもそも災害時の出動は想定していないという。

このような大量のATMは普段は使わないものなので、ある意味無駄なのかもしれないが、とっさの機転でATMを大量配置するという行動はなかなか目からうろこだ。キャッシュレスの推進もさることながら、そのバックアッププランとして災害時にどのような決済手段が有効で、それを必要な人に実際に届けることが可能か、そろそろ日本全体で検討してもいい時期なのかもしれない。(2019.12.18(水) 7:05配信 ITmediaNEWS)

災害時のキャッシュの問題は北海道の胆振地震で現代のキャッシュレス化の課題が露呈しました。防災対策の中に手元に現金を特に小銭を準備しましょうとアナウンスしていますが、多額の現金を手元に置くことは防犯上の観点かにおいてはよろしくありません。記事にもありますように災害大国日本も発災時の決済方法について真剣に検討するべきなのではないでしょうか!!