津波注意報が発表された先月18日の山形県沖地震で、沿岸部に市街地がある酒田市では、避難指示などのない中で1200人超がビルや公共施設に避難した。浸水想定区域内には避難者を受け入れる民間の津波避難ビルが5カ所あるが、夜間で無人だったり従業員が数人の施設も。一刻も早く安全を確保したい市民と、民間ビルでできる対応の間に開きがあり、行政側の周知など課題があることが浮き彫りになった。

地震発生から2分後の18日午後10時24分、津波注意報が発表された。市は防災ラジオや防災無線による市内全域への放送で海岸近くの人に避難を呼び掛けた。酒田市の把握では最大約1250人が避難した。

市の津波ハザードマップによると、海に近く、最上川河口付近で浸水想定区域(要避難地域を含む)とされる住宅密集地の山居町、若竹町、千石町周辺は公共施設で高い建物がなく、市に協力する民間5施設が、緊急時に立ち入りを認める津波避難ビルに指定されている。誘導などの義務はなく、市との協定で業務時間帯に限り立ち入りを許可するビルもある。地震発生直後、住民が続々と津波避難ビルに集まったが、夜間で施錠されている所もあった。一部の避難者からは「緊急避難場所なのに開いていないとは」「なぜもっと早く入れないのか」との不満が漏れた。

一方、ビルを管理する関係者からは「住民の命を守るためにと協力した結果、逆に悪い評価につながるようでは困る」「津波から逃れる場所を提供し、可能な限り対応していることを、市がもっと住民に周知してほしい」との声もあった。

一帯の想定浸水開始時間は早い場所で15分ほどで、地震発生後にビル関係者が駆け付ける形では避難に間に合わない可能性が高い。

避難ビルの一つ庄内JAビルは、夜間は無人だが、建物西側に幅が1.5メートルほどで壁に囲まれた非常階段があるため「緊急時は活用してほしい」と担当者。屋根もあり、4~5階部分だけで100人ほどが一時避難できる。この場所の住民への周知を市に依頼した。

24時間体制で従業員のいるホテルリッチ&ガーデン酒田は、今回の地震で約180人を受け入れた。足の不自由な高齢者は従業員が背負って2階へ。無料で飲料水も配った。さらに遅い時間帯だった場合、従業員数人で宿泊客の対応をしながら受け入れなければならず、今回のような手厚い対応は難しくなるという。

昼夜を問わず安全な避難場所を求める住民と、「住民の命を守るために協力したい」との思いはあっても限界がある民間の避難ビル。今回の地震後、市危機管理課は各ビルの管理企業などと協議を進めており「より良い在り方を模索したい」と話す。(2019.7.6(土) 12:38配信 山形新聞)

防災対策で机上の空論で物事を考えることが初動ですが、次に大切なのが実際に発災したことを想定した防災訓練です。その訓練の目的の中に課題の洗い出しがあります。課題に対してどのように対処するのかの積み重ねが人の命を守ることに繋がります。今回のケースは実際の発災時に起きた案件です。津波被害がなかったことが何よりも幸いしていますが、早急に対応する必要があります。